夏の甲子園大会が終わった。履正社(大阪)が星稜(石川)を破り初優勝。決勝戦は手に汗握るナイスゲームだった。

初優勝を飾り喜ぶ履正社ナイン(撮影・清水貴仁)
初優勝を飾り喜ぶ履正社ナイン(撮影・清水貴仁)

翌日、私のもとに1通のメールが届いた。送り主は高校野球ファンのNさん。Nさんは毎年、夏の地方大会前に、その年の甲子園優勝校予想を送ってきてくれる。8~10校程度優勝候補を挙げてくるが、今夏、その中に履正社の名はなかった。おさらいするとNさんの予想は星稜、明石商、明豊、智弁和歌山、智弁学園、広陵、近江、東海大菅生、常総学院だった。

驚くことにNさんの予想は昨年まで5年連続で的中していた。惜しくも6年連続的中を逃したNさんのメールには「敗因」が記されていた。

(1)1969年松山商以来50年間、約90%の確率で、夏の優勝校には、ある一定の共通するデータがある。負け惜しみになるが、今年の履正社もそのデータにピタリと当てはまっていた。ではなぜ今回、私が、履正社を入れなかったか。理由は1つ。データだけで判断すればよかったのに、履正社の戦力を見、頼りになる投手が清水1人しかいないと判断してしまったから。シンデレラボーイ岩崎の存在を完全に見逃していた。優勝した履正社のMVPは、桃谷でも井上でもない。岩崎だと思う。

(2)明石商のように、コツコツ点を取って、守って、というスモール・ボールでは、もはや夏は優勝はできない。当たり前だが、強力打線とプロ注レベルの複数投手を両立させないと勝てない。2020年は、そこを踏まえて考えたい。

すでに来年に向け、マークしているチームは、10チーム前後ある。秋季大会、神宮大会、センバツと、戦いぶりを注目していきたい。

さらにNさんはこの原稿を書く直前に電話をくれた。「大阪桐蔭、履正社と2年続けて大阪勢が優勝した。大阪大会もこのタイミングでシード制を導入すべき」。数年前、初戦で履正社と大阪桐蔭が対戦したことがあった。全国でシード制を採用していないのは大阪だけ。ノーシード制のメリットは序盤から強豪校同士がつぶし合う可能性があり、ダークホースが優勝するチャンスが増える点か。一発勝負の高校野球。番狂わせは付きものだが、実力校同士が地方大会終盤でしのぎを削り、甲子園で全国の強豪と戦う。Nさんのような高校野球ファンも多いのではないか。

それはさておき、自分なりに今年の夏をふり返ってみたい。

私も星稜を優勝候補に挙げていた。智弁和歌山との延長14回の激闘を経て、決勝に進出。エース奥川投手も準々決勝で温存に成功するなど、日程的にも万全かと思われた。しかし、決勝では履正社打線に打たれた。履正社打線が素晴らしかったことはもちろんだが、やはり奥川投手のスタミナ面にやや問題があったのかと考えた。それは奥川投手の投球フォームにあるのではないか。これは元巨人投手で日刊スポーツ評論家の西本聖さんも指摘しているが、彼はステップ幅が狭く、左膝が突っ張る上半身が強い投球フォーム。上半身が強いのは悪いことではないと思うがもう少し下半身を使えればもっと負担少なく投げられるのではないかということだ。決勝で本来の力を発揮できなかったのは少なからず上半身が強い投球フォームで疲労が蓄積した影響かもしれない。彼はプロの世界に入ると思うが、どんな投手になっていくのか、1年目から活躍できるのか、時間がかかるのか、思いをめぐらせた決勝戦での投球だった。

さて、最後に大きな騒ぎになった大船渡(岩手)佐々木朗希投手の決勝戦登板回避問題。

春の岩手大会地区予選。大船渡・国保監督の囲み取材に加わって驚いたのが開口一番「ケガなく終われてよかったです」というコメントだった。この試合で佐々木投手は2イニングを投げただけ。最速は140キロだった。さらに同監督は骨密度測定をした結果、まだ成長途上の体である点などを説明した。佐々木投手を大事に育てたいという気持ちが伝わってきた。その後、岩手・野田村で行われた春季県大会初戦では登板させず敗れた。国保監督のぶれない方針を感じた。

そんな取材を経ていたせいか、夏の岩手大会決勝で登板回避したことも理解できた。「故障を防ぐため」というコメントにも、ああやっぱりなと納得がいった。取材ノートをめくってみると5月3日の地区予選後の囲みで国保監督はこんなことも話していた。「(佐々木は)いろんなものを背負って投げていくんだろうなと。(夏の大会に向けて)雨が降って気温が低ければいいなと。(試合の)間隔が空いて曇りの日が続けばいいなと思います」。当時から夏の大会でこういう結末になることもある程度覚悟していたのではないか。

高校野球の日程の問題についてはフィリーズの大慈弥功スカウトがこんな話をしてくれた。

「沖縄のように地方大会を早く(6月中)始めて、週末ごとに試合をすればいいのでは。甲子園大会も3回戦が終わったら1週間休みを取る。その間、甲子園を本拠地とする阪神が試合をすればいい。阪神も『死のロード』がなくなる。それと高校生は9イニングではなく7イニング制にするべきでしょう」。大慈弥さんからは佐々木投手が決勝戦の登板を回避した際、すぐにメールをいただいた。「子どもありきの素晴らしい決断だと思います」と短く記してあった。

ただ、一方で投げさせるべきだったという声があるのも事実。野球評論家の西本聖さんにも意見をうかがったが「肩や肘に問題がなかったのであれば投げさせてほしかった。こういう試合を投げてこそ得られるものもある。修羅場をくぐることで成長できる。チームメートも納得したのかな」と話してくれた。「かわいい子には旅をさせよ」とも言われる。状態が悪くなかったのであれば、投げさせてみて、異常に気付いたらすぐに降板させる手もあったのかなと…。それでも、一番近くで見ている指導者が決めた結論。故障だけはさせまい。最後まで信念を貫き通した国保監督の意志を尊重したい。

(メディア戦略本部 福田豊)

花巻東対大船渡 試合後、会見に応じる大船渡・佐々木(撮影・横山健太)
花巻東対大船渡 試合後、会見に応じる大船渡・佐々木(撮影・横山健太)