47都道府県で唯一、私立校の甲子園出場がないのが、徳島県だ。徳島商や池田、鳴門など公立勢が全国でも力を発揮してきた。県内の私立校で唯一野球部を持つ生光学園が100回大会の夏に、公立の壁を打ち破ろうと練習に励んでいる。

   ◇    ◇   

 四国では「4商」が戦前、戦後の高校野球のレベルを引き上げた。各県庁所在地にある高松商、松山商、高知商、徳島商だ。互いにライバル心を燃やし、研さんしてきた。今では3県で私立校が力を発揮しているが、徳島は公立志向が根強く残っている。徳島商や池田が全国でもその名をはせた。昨年は鳴門渦潮(鳴門一と鳴門工が合併)が夏を制し、その前は鳴門が5連覇している。

 「公立志向が強いので、生徒を集めるところからのスタートでした。以前は選手個々で言えば、うちの力は落ちていた。接戦で負けることもあったが、いい試合をしたな、というのが本音であった」

 生光学園の理事長、市原清は振り返る。80年に創部し、その2年後に監督に就任。25年にわたり、采配を振ってきた。かつては「私立に勝たせるな」という雰囲気が球場全体にあった。市原も周囲から、こんなセリフをよく言われた。「審判も相手にせなアカン」。微妙な判定では公立校に有利に働く-、そんな風に見られた。地元の有望選手は入ってこない。県外から選手を集め、市原はコツコツとチームを作った。「とにかく公立に負けないように、頑張ろうとやってきた。公立の生徒よりも、キビキビと動け、礼儀正しくしろ、と」。夏の大会は95年、11年の2度決勝に進んだが、鳴門と徳島商にはねかえされた。甲子園は遠かった。

 市原は長期的な強化策に打って出た。もともと幼稚園から高校までの一貫校。06年に中学校の硬式野球部を立ち上げ、ヤングリーグに所属した。監督には同じ駒大出身で元巨人の平田薫を招いた。「じっとしていたら、徳島商や鳴門に生徒は行く。それなら、中学の野球部を作って、自前で育てれば、その先が見えてくるのでは」。入部する中学生はほとんどが県内出身者。練習面でもメリットは多い。中高が同じ校長なら、3年夏の引退後に高校生と合同練習ができる。監督の河野雅矢は言う。「普通の高校なら、冬の練習は3年間で2度しかできない。ただ、うちの中学生は3度、一緒に練習できる」。ただ、立ち上げ当初は思わぬ問題に直面した。育てた中学生が県内の公立強豪校を選んだのだ。ここにも甲子園未出場校の悲哀があった。

 それでも最近は流れが変わった。そのまま高校に進む生徒が増え、チーム力も上がってきた。特に現チームは中学の主力選手がそのまま投打の骨格となしている。主将で遊撃手の月岡大成(3年)もその1人だ。全国で唯一、私立の甲子園出場のない都道府県だと知っていた。「自分たちの代で決められたら、いいと思った。それが(進学の)一番の理由です」。

 今の球場には、かつてのような「私立包囲網」を感じることはないという。市原は言った。「自分で言うのもおかしいが、うちの応援団が一番多い。お客さんが、弱いから勝たせてあげたいと思っているかもしれませんが(笑い)」。礼儀を重んじる指導方針が認知されたことを実感。戦績も上位で安定してきた。昨夏の徳島大会は4強。秋は県大会を制し、四国大会は8強まで進んだ。時は来た。100回大会で、創部39年目の悲願達成なるか。(敬称略)【田口真一郎】

 ◆徳島の夏甲子園 通算65勝55敗1分け。優勝1回、凖V3回。最多出場=徳島商23回。

徳島県の私立校として初の甲子園出場を目指す生光学園・河野雅矢監督(左)とナイン(撮影・田口真一郎)
徳島県の私立校として初の甲子園出場を目指す生光学園・河野雅矢監督(左)とナイン(撮影・田口真一郎)