第100回を迎える夏の甲子園の前に高校野球について聞く「著名人インタビュー」第2弾は、弁護士の橋下徹氏(49)です。大阪府知事、大阪市長時代に多くの改革を実行した橋下氏が思うことを語った。

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 ラグビーの話しか表に出てませんが、もともとは野球をやっていました。東京で暮らした小学校4年までスポーツ少年団のチームでピッチャー、渋谷区の大会で優勝したこともありました。

 肘を壊しましてね。体育の授業で転んだ時の脱臼なのか、野球の練習によるのか、原因ははっきりしませんが、小学5年で大阪に引っ越したのを機に野球人生は終わりました。でも甲子園大会は見ていました。早実の荒木大輔さんが強烈に印象に残っています。野球をやっていた当時は「甲子園に行って、プロ野球選手になりたい」と普通に言っていた子供でしたよ。

 純粋な子供たちにそう思わせる甲子園大会はスーパーイベントだと思います。アマチュアリズムの徹底、商業主義の排除。すがすがしさを前面に出すことによって子供たちは憧れの思いを抱く。白球を追う青春ドラマとして感動を呼ぶ。この連鎖が競技人口を増やし、スターを育成し、野球振興に寄与してきたことは間違いないと思います。

 このように功罪でいえば、これまでは功が多分にあったのかもしれません。しかし、今においては罪の部分が大きくなっていると思います。あまりにも青春仕立てが過ぎるのではないか。生徒たちへの負担は人生を狂わせるほどのものになっているのではないか。そう強く思うようになったのは大阪市長時代、桜宮高のバスケットボール部で起きた指導者の体罰指導による生徒の自殺事件が大きなきっかけでした。

 元巨人の桑田真澄さんに講演を依頼し、女子バレー代表監督を務められた柳本晶一さんには学校に乗り込んでもらって改革を実行してもらいました。僕も学校スポーツについていろいろ勉強しましたが、その中で戦前の学校スポーツは野球に源流があり、それは兵士養成プログラムという意味もあり、そして甲子園大会はその流れを引いているということに行き着きました。

 柳本さんからは「プレーヤーズ・ファースト」を教わりました。学校スポーツは、選手が心の底からスポーツを楽しみ、スポーツを通して成長していけるよう、指導者は選手のサポートに徹するべきだという考え方です。勝利や過度な教育を目的とした瞬間に、指導者と選手の間に上下関係が生まれてしまいます。指導者はあくまでも選手のサポート役。そのようにぜひ意識を変えて欲しいですね。

 高校野球もこれからは合理的にやりましょうよ。でないと今の賢明な子供たちは野球をやらなくなってしまいます。プレーヤーズ・ファーストの視点で、炎天下での試合や過密日程はやめて、投手の球数制限をもっと厳しくする。甲子園大会で選手生命が短くなるなどあってはならないことです。いま流行(はやり)の働き方改革を、高校野球にも適用すべきです(笑い)。

 また少子化時代においては、学校単位でチームを編成することは困難になるのですから、サッカーのように地域のクラブチームに移行していくべきです。こうなると高野連の力が弱まるので、高野連は猛反対するでしょうが。

 さらに丸刈り禁止令をやるべきです。いまどき高校生の一斉丸刈りなんておかしいですよ。主催者の朝日新聞が最も嫌う戦前の軍隊と同じじゃないですか。丸刈りの似合う、どうしても丸刈りにしたい生徒だけに丸刈りを許可して、原則丸刈りは禁止にする。こんなことくらい主催者の判断でやろうと思えばすぐできるでしょ?

 学生スポーツの象徴であり、最も影響力のある高校野球の甲子園大会が合理的なプレーヤーズ・ファーストに生まれ変われば、他のスポーツも国民の意識も劇的に変わると思います。

 ◆橋下徹(はしもと・とおる)1969年(昭44)6月29日、東京都生まれ。小学5年で大阪へ。北野高ではラグビー部に所属し、3年時に花園16強。早大卒。97年弁護士登録。08年大阪府知事就任、任期途中に辞職して11年大阪市長選に初当選。15年12月、政界引退。家族は夫人と3男4女。

高校野球について話をする前大阪市長の橋下徹氏(撮影・清水貴仁)
高校野球について話をする前大阪市長の橋下徹氏(撮影・清水貴仁)