「もう少し、スピードが欲しかったね。球威もね。引っかかる球はなかったが、これからコーチと話し合いますわ」言葉少なだった金本監督。

 「晋太郎のポテンシャルからすれば、まだなのかもしれないが、今の段階としては“良し”ですよ。悪いときから比べれば、ひとつ、ひとつのプレーは気持ちが前に向きだしていますから」は矢野2軍監督である。

 さて…。両監督の少々含みを持たせた談話をどう受け止めるか。3月23日、ホームグラウンド・鳴尾浜球場で行われた今季初のウエスタン・リーグ公式戦。復活を期す藤浪が登板した。開幕1軍ローテ入りをかけてのマウンド。6イニングを投げて被安打2、三振4、四球3、失点1、自責点0のピッチングだった。素晴らしい球もあれば、危ない球もあった。そこで金本、矢野1,2軍監督の談話だ。当確と見るか、まだまだと見るかだが、今シーズンの阪神浮沈のカギを握る注目の人。黙って見過ごすわけにはわけにはいかない。現状にスポットを当ててみた。

 マックス153キロが出た。相手バッターのバットをへし折った。昨年の打者がのけぞって逃げるような抜け球はなかった。目に見えての引っかけ球も少なかった。数字だけを見れば「結果良し」だが、ピッチャーをネット裏から見ていると、甘い球は何球かあった。相手はファーム。1軍の中心打者とはかなり力の差がある。この差をどう分析するか。確かにこういう内容は各チームのエース級の投手でも1試合投げれば何球かはあるもので、とやかくいう問題ではないかもしれないが、大事な場面で出るようなら怖い。要するに投げてみないとわからないのが現状だということ。

 藤浪の現状とは裏腹に今季の阪神。チームの事情からいえば目標のペナントを制するには、藤浪の2桁勝利は必須条件。元々は投手陣の軸となるべき力を持った選手だけに勝ち星を計算したくなるところだが、ここ2年、精神的なトラウマから調子を乱し、首脳陣の信頼を失いつつあるのがチームの痛手となっている。一昨年までと比較してみると違いが如実に現れている。病に苦しむ前の藤浪なら、この時期の登板といえば自分の調子を調整するためのマウンドだったが、立場はガラッと変わった。今年のマウンドは完全に己をアピールする場となっている。厳しいがこれが実力の世界だ。甘くはない。そして、好調時の藤浪であれば、この日の内容で首脳陣は「これで良し」と安心しきっているはずなのに、現状はもろ手を挙げて喜べない。逆に不安を抱いたままのはずだ。

 復活なるか。カギを握るは精神力だ。要するに自信だ。過去にイップス病を持ちながら大活躍した投手を見てきた。私が阪神の広報担当として復帰した頃の故・小林繁投手である。ある年の開幕戦では敬遠するつもりの投球がとんでもない暴投となってサヨナラ負けした試合もあったが、8年連続して2桁勝利を挙げていながら「もう限界、自分の思っている球が投げられなくなった」と言い残して現役を引退した。向こう意気の強いピッチャーだった。その強う精神力が小林氏を支えていたのは確か。今回の藤浪で気になるのは1点を許した5回、バント処理での一塁送球でイップスが出て悪送球したこと。尾を引かなければいいが…。小林氏にあやかれ。気持ちを強く持て。いちOBとして復活を期待したいね。

 果たして首脳陣はどう決断するか。ネット裏には坂井オーナーがいた。同オーナーと並んで金本監督が視察していた。この日の内容を本人は「序盤はバランスが良くなかった。4回ぐらいですかねえ。下半身がうまく使えてきた。なかには引っかけた球もありましたが、何とか修正できました。前回はボール自体は良かったのに修正できなかったが、その前回の一番の反省点をクリアできたし、自分の間合いといいますか、いいタイミングで腕が振れて、一番力が加わる体の感覚がありました」の手応えを口にした。

 それでは香田ピッチングコーチの目にはどう写ったか。「投げっぷりが良かった。ひとつ、ひとつのボール自体も力があった。そういうところ(開幕ローテーション入り)で投げてもらうことになりそうだ」である。

 “GOサイン”が出るか。“待った”がかかるか。微妙なところだが、手応えをつかんだ藤浪と、開幕ローテ入りをにおわせた同コーチの気持ちがひとつになった。GOサインをだすチャンスとみたが…。

阪神藤浪晋太郎(2018年3月23日撮影)
阪神藤浪晋太郎(2018年3月23日撮影)