3000メートル走のスタート直後に独走を見せる近本(2019年1月10日撮影)
3000メートル走のスタート直後に独走を見せる近本(2019年1月10日撮影)

今年初の鳴尾浜球場だ。目的は1月9日からスタートの阪神新人合同自主トレである。7人のルーキーは寒波の襲来などものともせず一斉に始動。プロとしての第一歩を踏み出した。

大きな夢を抱き、前を向け。プロの世界、桧(ひのき)舞台で活躍するための基本は心技体の充実だが、プラス技術面の投、攻、守、走のいずれかに特長を身につけている選手は強い。そして、状況判断など頭も使える選手は1軍のレギュラーポジションをつかんでいる。躍動する新人を拝見していて、今季その期待に応えられる1番手は、ドラフト1位で大阪ガスから入団した近本光司(24)と見た。

近本に強く引き寄せられたのは、50メートル5・8秒という特長の足と野球に取り組む姿勢である。特に盗塁に関しての超前向きな気持ちには感心した。

7日付の日刊スポーツ(関西版)だ。1面トップの原稿。取材の中心は当然“盗塁”の質問が中心。「場面ごとの配球を映像で見てみたいです。盗塁は思い切ってスタートを切れるかがカギですので。映像を見ながら研究します」は当たり前の話だが、注目したのは足の速い走者が出塁したときの捕手の考えを矢野監督に聞いてみたいと言うのだ。素晴らしい発想の持ち主だが、入団したばかりの新人が、監督に自ら声をかけて、直に話し合ってみたいというから驚いた。普通、監督から声をかけてのケースはよくあるが、ルーキーから声をかけるなんて恐れ多くてなかなか思いつかない。ここに近本の超前向きな姿勢を見た。

2日目の練習後だった。「まだ話はしていませんが、機会がありましたら是非聞いてみたいです」は近本である。口ぶりから察するに、なんとなく遠慮気味に聞こえたが、願望が強いのはよく分かる。そこで私、一役買って出ることにした。「そうか。まだか……。やっぱり聞いてみたいよな。う~ん。よっしゃ。そしたら俺から監督に伝えておくわ」の援護を約束すると、笑みを浮かべて「お願いします」と一礼されたが、盗塁は近本の持ち味だ。今回のキャンプ期間中にでも、どこかで実現してほしいですね。

約束した日、合宿で新聞に目を通しているとタイミングよく矢野監督とバッタリ。年が明けて初めての対面だ。だが、新年のあいさつもそこそこに、早速近本との件を伝えると「そうですか。しっかりした選手ですし頑張ってくれると思います。その話は頭の中に入れておきますから」と気に留めてくれた。質問は--初球のセオリーってあるんですか、僕が一塁走者だったら初球どうしますか、球種を読むよりコースで走った方がいいんですか、内角の球は二塁に投げにくいと思うのですが、変化球は二塁に投げにくいのですか……などなど。山ほどありそうだが、2人での盗塁談議に期待しておこう。

弱肉強食の厳しい世界を体験するのはこれからだが、まずはプロ野球選手としてのスタートを切った。初日の家を出る時からの感想を聞いてみると「社会人の頃は家を自転車で出発して駅まで行き、あとは電車で通っていましたが、今日は家から自分で運転して車で出てきましたので、なんかすごく違和感がありました。グラウンドでは緊張することもなく、新人全体で雰囲気も良く声を出して練習することができました。キャンプまでしっかり自分のペースでやっていきます」早くも生活に変化があったようだ。

ノンプロでの実績は申し分ない。昨年の都市対抗では首位打者に輝き、チームの優勝に貢献。MVPの橋戸賞を獲得したが、今年からはプロの世界に飛び込んだ。力の差はあって当然。持ち味は足。桧舞台での活躍はキャンプ、オープン戦でのアピール度にある。目標は赤星憲広先輩。同選手は入団時から見てきたが、守、走に関してはすでにプロのレベルに達していた。確かに肩はそれほど強くはなかったが、ランナー二塁のピンチで見せる中前打をさばく時のチャージはものすごく、相手の三塁コーチャーが走者をストップさせるシーンをよく見た。さて、近本は--。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)

新人合同自主トレを視察しドラフト1位近本(右から2人目)らに声を掛ける矢野燿大監督(2019年1月10日撮影)
新人合同自主トレを視察しドラフト1位近本(右から2人目)らに声を掛ける矢野燿大監督(2019年1月10日撮影)