元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載中。32回目は「過去10年ドラフト1位選手の活躍に見る考察~パ・リーグ編」です。

 チームの顔、球界を代表する選手としての期待がかかる「ドラ1」にフォーカスし「過去10年ドラフト1位選手」の入団時と直近成績をチェック。そこから各球団のドラフト戦略、育成状況がどうかを見る。今回はパ・リーグ編。


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【日本ハム】

 06年高1位 吉川光夫(12年防御率、MVP、16年オフに巨人へトレード)

 06年希望枠 宮本賢(12年戦力外)

 07年高1位 中田翔(14、16年打点王)

 07年米3A 多田野数人(現BC石川)

 08年大1位 大野奨太

 09年高1位 中村勝

 10年大1位 斎藤佑樹

 12年高1位 大谷翔平(15年最多勝、最高勝率、防御率、16年MVP)

 13年高1位 渡辺諒

 14年大1位 有原航平(15年新人王)

 15年大1位 上原健太

 WBCでは大谷がけがで出場見送りとなったが大野、中田が「ドラ1」から代表入り。惜しくも日の丸メンバーとはならなかったが、有原も順調に育っている。ここ10年でNPBを離れた選手は11人中2人とまずまずのドラフト戦略ではないだろうか。顔ぶれを見ると“ビッグネーム”もズラリ。14年有原は4球団、10年斎藤佑樹も4球団、07年中田翔も4球団競合となかなかのくじ運で獲得した。ただ、11年は巨人と相思相愛とみられた菅野を指名し、くじで交渉権を得たものの、獲得に失敗して同年の1位選手はなし。06年は4位で日大の長野(現巨人)を指名するも拒否された。12年の大谷はメジャー挑戦を表明していたが強行で単独指名。「第1志望はゆずれない」感が透けてみえるのは球団方針か。言い換えると選手や関係者の思惑を排除し、実力主義で指名しているように見える。


【ソフトバンク】

 06年高1位 福田秀平

 06年希望枠 大隣憲司

 07年高1位 岩崎翔

 07年大1位 大場翔太(15年オフに中日へトレード、16年引退)

 08年大1位 巽真悟(16年引退)

 09年高1位 今宮健太

 10年高1位 山下斐紹

 11年高1位 武田翔太

 12年大1位 東浜巨

 13年社1位 加治屋蓮

 14年高1位 松本裕樹

 15年高1位 高橋純平

 12人中7人が高校生1位。選手層に厚みを持つチームのなせる業か、余裕のあるドラフト指名で即戦力にこだわっていない。15年の松本もけがで他球団が回避する中、4~5年の余裕を持って構えているのか。高橋純平も熟成栽培でじっくり育てている。WBC選出の武田を筆頭に今宮、岩崎、福田らもチームの戦力として着実に成長。15年高橋純平3球団、12年東浜3球団、07年大場(16年引退)が6球団と、くじに関して言えば、すさまじい「引き」。過去10年の枠組みから外れるが16年の田中正義も5球団競合を制した。かつては王会長が、最近では工藤監督らがくじ引きの大役を務めるが、ホークスの引きの強さはなかなか。また、宮崎日大から11年に武田、大分・明豊から今宮(09年)を単独指名するなど、地元九州に根ざした選手獲得の方針も感じられる。


【ロッテ】

 06年高1位 大嶺祐太

 07年高1位 唐川侑己

 07年社1位 服部泰卓(15年引退)

 08年社1位 木村雄太(16年戦力外)

 09年社1位 荻野貴司

 10年大1位 伊志嶺翔大

 11年大1位 藤岡貴裕

 12年社1位 松永昂大

 13年社1位 石川歩(14年新人王、16年防御率)

 14年大1位 中村奨吾

 15年高1位 平沢大河

 石川、藤岡、松永らドラ1選手はまずまず頑張っている。タイトルホルダーが石川1人というのは少し寂しいが、全体的にここ10年のドラ1指名は悪くはない。しかし、もっと日の丸を背負う代表クラスが出てきてほしい。11人中、高校生指名が3人。常に即戦力を求めているせいか、ソフトバンクと比べると余裕がない。野手に関していえば、韋駄天の荻野はけがに泣かされ、伊志嶺にしてももう一つ。野手のドラ1選手は最低でも常に1軍にいてほしい。


【西武】

 06年高1位 木村文和(12年野手転向)

 06年希望枠 岸孝之(14年最高勝率、16年オフに楽天へFA移籍)

 07年社1位 平野将光(15年引退)

 08年高1位 中崎雄太(現BC栃木)

 09年高1位 菊池雄星

 10年大1位 大石達也

 11年社1位 十亀剣

 12年社1位 増田達至(15年最優秀中継ぎ)

 13年高1位 森友哉

 14年高1位 高橋光成

 15年大1位 多和田真三郎

 06年の木村が野手に転向しているが、野手のドラ1は森だけだ。しかし、おかわり君、浅村、秋山、栗山と打線は充実。打者の育成面ではすばらしい成果を上げている。投手力が課題だけに指名が投手に偏るのは仕方がないかも知れない。高橋光成、16年1位の今井ら若手が育てば強力打線に期待ができるだけに、ディフエンス面強化に注目したい。


【楽天】

 06年高1位 田中将大(07年新人王、最多勝2回、防御率2回、奪三振1回、最高勝率2回、MVP1回、沢村賞2回、14年からヤンキース)

 06年大1位 永井怜(15年引退)

 07年高1位 寺田龍平(11年引退)

 07年大1位 長谷部康平

 08年社1位 藤原紘通(13年引退)

 09年大1位 戸村健次

 10年大1位 塩見貴洋

 11年社1位 武藤好貴

 12年高1位 森雄大

 13年高1位 松井裕樹

 14年高1位 安楽智大

 15年高1位 オコエ瑠偉

 西武と同様、こちらも投手偏重指名となっている。野手はオコエ1人だ。塩見、松井裕が頑張っているが、安楽が出てくれば面白い。マー君を除き06~08年のドラ1選手の活躍度合いが残念。楽天球団誕生が2005年、当時は選手層も厳しかったようで07年の高校1位・寺田を除き、06年~11年まで大学、社会人からの指名に。野村監督時代の09年にリーグ2位、星野監督時代の13年に日本一に輝いた。球団創設12年でAクラスはこの2回だけ。期待していた即戦力(大学、社会人)の活躍がもっとあればチームはさらに上をいった。逆に高校から入団したマー君、松井裕は1年目から活躍してチームを支えている。12年以降、先を見据えた高校生中心のドラフト戦略となっている。


【オリックス】

 06年高1位 延江大輔(12年戦力外)

 06年希望枠 小松聖(08年新人王、16年引退)

 07年高1位 丹羽将弥(12年戦力外)

 07年大1位 小林賢司(12年引退)

 08年高1位 甲斐拓哉(12年戦力外)

 09年大1位 古川秀一(15年引退)

 10年高1位 後藤駿太

 11年社1位 安達了一

 12年大1位 松葉貴大

 13年社1位 吉田一将

 14年大1位 山崎福也

 15年大1位 吉田正尚

 06年から09年まで6人が引退している。特に主力で回っているはず?の高卒投手の空振りは痛かった。10年以降のドラ1はそこそこやっているが、日本代表クラスには届かない。くじ運も厳しく、06年マー君×、07年中田翔×、07年大場×(16年引退)、10年大石×、11年高橋周平×、12年藤浪×となっている。第1希望を外した後の「外れ1位」が09年まで不発となっており、戦略上のミスがあったのではないかと思われる。外れ1位であろうが12分の1の確率で、アマNO・1を指名できるのだから、10年持たずに引退する結果は残念。外国人助っ人で大砲を補強しても不発に終わるケースが多かった。14年以降は他球団との競合を避けた単独指名も多く、ドラフト戦略を方向転換したかも知れない。昨年新人で2桁本塁打を放った吉田正がブレーク気配。吉田正に乗じて若手が一気に伸びてくることを期待している。


 今季入団したソフトバンク田中正義、ロッテ佐々木千隼、楽天藤平、オリックス山岡らが10年後にどんな姿になっているか。チームの主力として君臨できているかが大事だと思う。プロでの経験年数が進むと後輩もできるだろうが、活躍する背中をみて若い選手もついてくる。10年後、自分がチームのどの位置でプレーできているか。チームだけでなく、ファンも「ドラ1」への期待は大きい。10年後見据えた野球人生を、それを楽しみながら見守っていきたい。“チームは一日にして成らず”。その時代を生きるドラフト指名選手が、一つ一つの成果を地道に積み上げて常勝軍団の土台は築かれていく。


 ◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「サトのガチ話」)