さすがにドタバタはなかった。22日の甲子園。巨人戦の最後はすべて伊藤将に託した。これまでなら、7回あたりから尻がモゾモゾし始め、ベンチの矢野は継投のタイミングを計っていた。それがこの日は違った。

伊藤将のピッチングが素晴らしかったのもあるが、この試合は伊藤将に預ける…という矢野の覚悟。それがはっきりと見えた。グラウンドとベンチが一体となった勝利。僕にはそう映った。

選手もベンチもスタンドのファンも、すべてが共有したのが「納得」という2文字。これまで、ほとんど納得できるゲームはなかった。こういう試合をより多くしていけば、チームの戦う形が整ってくる。

これでその差は「3点」になった。3点差とは、ここまで47試合を消化しての得失点。得点総数が144点。失点総数が147点。これが逆転してやっとバランスよく戦えるということなのだ。リーグ最低のチーム打率、2点台のチーム防御率。打てない打線をバックに、けなげに投げ続ける投手陣という構図は、やはりアンバランスでしかなかった。ヤクルトと広島は得失点差が相当あり、まとまりが見てとれる。意外なのは巨人で、失点の方が多いけど、2位にとどまっている。中日、DeNAは明らかな失点過多の数字が残る。

そんな中、異色の最下位が阪神だ。得点と失点がほぼ同じながら、テールエンドとはこれいかに。僅差で勝ち、僅差で負ける。この繰り返しでここまできたということになる。

それにしても、と思う。まったく借金が減っていかない。開幕から9連敗して、そのあと1勝して、また6連敗。17試合(引き分けが1試合)を消化して、できた借金は14。これがいまは12(22日現在)。たった2つしか減っていない。途中、6連勝があったけど、大口返済には至らなかった。

「借金してる間は、やっぱり気持ちがよどんでいるからな。すっきりしたいし、気持ちよく戦うには、早く借金を消すことなんや」。これは2002年シーズンの中ほど、星野仙一に伝えられた言葉だった。お前もそうだろう? 借金が多くあって生活してても、ちっともおもしろくないやろ? 痛いところをつかれた。僕はこう返した。「野球はいくら借金しても、翌年にはチャラになりますやん」。同じ借金でも野球と一般社会とは違う。「そらそうや」と星野は笑っていたのを思い出す。

すでに残りは100試合を切った。気持ちよく、バランスよく戦っていくための節目を迎える。そう、交流戦のスタートだ。リセットするには絶好のタイミングで訪れることになった。これを上昇のキッカケにするか、ますます深みにハマるか。阪神の今シーズンが、この期間で決まる…とまで僕は考えている。

交流戦が導入されてから、阪神は得意にしている印象が強い。セ・リーグが軒並み、パ・リーグにボコボコにされている中、阪神は互角以上に戦ってきたイメージが残っている。「要はシンプルに考えることよ。データはデータで生かすけど、それ以上の直感というのかな。シンプルに戦うこと、自分たちの野球をすれば、そうは負けない」。交流戦の鬼、元監督の岡田彰布は語っていたが、果たして矢野はどう考え、どう采配していくのか。場合によっては、大きく差を詰めることができるし、その逆に、シーズンが本当に終わってしまう危険性もある。

我々凡人のあるある…で、何か線を引きたがる。「ここから再スタートする。生き方を変えて、生まれ変わってみせる」と、心の線を引く。僕など、この繰り返しで、結局、借金は減らなかったけど、阪神は堂々と線を引き、交流戦に臨めばいい。

今シーズン、パ・リーグの野球に顕著な傾向が存在する。日本ハムを除く5チームのチーム防御率が2点台なのだ。強力な投手陣。パの投手のパワー投法が目に浮かぶが、これを粉砕できるかどうか。阪神打線にすべてかかる。ここをうまく乗り切れば、先は見えてくるが、パワーに負ければ、ゾッとする事態が待っている。覚悟を持って、挑め! と伝えたい。(敬称略)【内匠宏幸】 (ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「かわいさ余って」)