<イースタンリーグ:DeNA5-1巨人>◇5日◇ジャイアンツ球場

捕手として通算出場試合1527、コーチとして4球団で計21年間(うち1年間は編成担当)指導にあたってきた田村藤夫氏(61)が、DeNA山本祐大捕手(22=京都翔英-BC・滋賀)の捕手らしい心配りと、呼応するようにペースを上げるエース今永昇太投手(27)に復調を感じた。

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長いこと捕手をやっていると、2軍バッテリーを見ていても、どこで何を感じるか、自分でも想像できないことがある。この日の試合も、山本がマウンドに向かう姿に、最初は多少の違和感だけだった。

DeNAが2点リードした直後の2回裏、故障から復帰を目指すエース今永は先頭の香月に四球。続く石川にも2-0となったところで、山本はパッと立ち上がりマウンドに向かった。私の記憶では同じ試合展開なら四球、四球、もしくは四球、安打による無死一、二塁で、そこで初めてマウンドという認識だった。マウンドに行くのはちょっと早いな、と思えた。

随分昔のことになるが、私の若手時代が思い出された。高卒からプロに入った私は、並み居るベテラン投手の前で萎縮していた。それでも試合中にマウンドに行かなければならない。確か、江夏さんだったと記憶している。「あんまり来るなよ」と穏やかに言われたと記憶している。

ブルペンで受ける時、江夏さんのグラブ付近に返球しないと捕ってくれなかった。マウンドの後ろに転がるボールを拾いに走った。それが恐ろしくて、イップスになりかけたことが思い起こされた。それでも、捕手は投手と向き合う、それが仕事だ。

山本がマウンドに行く姿に、4年目の22歳が、エースに向き合おうとする情熱を感じた。

この後、2-0から、ストレート見逃しで2-1、変化球ファウルで2-2、ストレートファウルで2-2のまま、最後はカット系で空振り三振、そしてランエンドヒットでスタートを切っていた香月を二塁で刺す。後続も三振に仕留め、3人で切り抜けた。

そこから今永の表情や、山本の動きをじっくり観察した。イニングが進むにつれ、今永は山本のサインに首を振って打たれると「悪い、悪い」と山本へ合図を送るようになる。今永のキャラクターも、山本の性格も分からない。普段からこうしたしぐさが自然と出るのかもしれない。私は2人のバッテリーを初めて見たので余計に新鮮に感じた。

エースが「悪い、悪い」とマウンドで意思表示するのは、捕手からすれば何とも言えない気持ちになる。つまり、サイン通りに投げられずにごめんな、というシグナルになる。それはベンチも見ているから、打たれたのは捕手のリードではなく、自分のコントロールミスだとかばってくれる意味合いを持つ。少なくとも捕手はそう感じるものだ。すると、今度は投手を何とかもり立てたいと考えるようになる。もう信頼関係があるということだ。

山本も三振を奪うとミットをたたきながらジェスチャーで今永を乗せていく。ここは低くと体を大きく動かしながらはっきりとメッセージを伝える。山本はバッテリーとして抑えようとしているのだと感じた。

今季1軍で8試合に出場している山本は、1軍の窮状を身をもって知っている。そこにエース今永が戻ることの大きさもよく理解している。今永を最大限もり立てて、最高の状態で1軍に送り出そうという意識も伝わってきた。

今永は左打者の外へのカットボールは良かったが、右打者の内角へのカットボールのコントロールがいまひとつだった。このボールが良くなれば、もう1軍に昇格できる。最速は147キロ。この日は6回を4安打1失点。昇格への準備はできつつある。

最後に、今回は球場ではなくテレビ観戦でリポートをするに至った。ジャイアンツ球場に出向いたが、試合の30分前に雨が降り出した。傘は持参していたがカッパはなかった。すると、各球団の編成担当からジャイアンツ球場では傘は差さずにカッパ着用で観戦するマナーを知らされた。お恥ずかしいことだが、今までの平塚や横須賀、鎌ケ谷は多少雨が降っても屋根があるので、何とかしのげた。

今回、ジャイアンツ球場のように後ろのファンの方を配慮したマナーがあることを初めて知った。考えてみれば確かにそうだが、今まではベンチから試合を見ていただけだった。ファンの方が雨天でも熱心に観戦する準備の良さ、マナーについて気付かせてもらった。

急いで自宅に戻り1回裏からテレビで試合を見るに至ったことを、最後に付け加えさせていただきたい。(日刊スポーツ評論家)

DeNA山本祐大(2021年2月13日撮影)
DeNA山本祐大(2021年2月13日撮影)