<イースタンリーグ:DeNA2-4西武>◇12日◇横須賀


捕手として通算出場試合1527、コーチとして4球団で計21年間(うち1年間は編成担当)の田村藤夫氏(61)が、DeNAの高卒2年目、森敬斗遊撃手(19=桐蔭学園)の走塁と守備に好判断と機敏さを見た。

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まず、オッと思わせたのは走塁だった。1点負けている3回裏、1死で9番森は遊撃への内野安打で出塁した。西武の先発本田のクイックは速くても1・28秒。だいたい1・3秒はかかりそれほど速くない。森がいつ走るか注目していた。次打者蝦名は5球投げさせたが、森は走らなかった。

ここはベンチからのサインも考えられる場面だ。仮に、走れるタイミングでスタートを切っていいぞ、というサインが出ていたなら、森の足と本田のクイックを考えれば当然走れるケースだ。もしもサインが出ていなければ、これはスタートを切らない森は責められない。スタンドから見ている限り、森の足なら1死二塁の同点機に広がるのに、と思いながら戦況を見詰めていた。

蝦名は三振に倒れ、乙坂の初球はバッテリーが外角に外し1-0。けん制が来た後の2球目は外角への変化球。ちょっと見えづらくカットボールかチェンジアップか判断はつかなかったが、森はスタートを切りセーフ。

捕手が取ってから二塁到達まで送球にかかったのは1・9秒。ワンバウンドになったため、仮にタッチまでを考慮すると2・5秒はかかっていた。ワンバンにならずにいい送球だったとしても1・9秒を切れるかどうか。森がセーフになる確率は高かったと感じた。

捕手から二塁への送球はワンバウンドになり、そのまま中堅へ抜ける。森は三塁まで進む。ここで西武の中堅手からカットマンに返球されたタイミングで森は一気にホームへ走る。カットに入った内野手からホームに返球されたが、森は楽々セーフで同点のホームを踏んだ。

スキをついた走塁だった。中堅手とカットに入った内野手がややもたついた感じがあった。おそらく森は、中堅から返球を受けるカットマンはホームに背を向けており、三塁走者の自分に対する注意がわずかに遅れたと感じたのだろう。逆に、西武からしてもまさか、という油断があったと言える。それを逃さず判断し、加速できたことが大きかった。スタンドからも大きな拍手が起こり、スリリングな場面に球場が沸いた。

4回表、森が守備につく時、再びスタンドから拍手が起きた。プレーに対するファンの拍手というのは見ていて気持ちがいい。好走塁は森が求められているプレーのひとつ。ファンの期待と、森の特長がかみ合っていた。森に対するファンの熱い思いを、大きな拍手の中に感じた。

7回、今度は守備で俊敏性を発揮した。先発上茶谷が死球を与えて1死一塁。仲三河はカウント1-1からストレートかカットボールを打ち、遊撃の二塁ベースよりへのいい当たりとなった。森の守備位置はやや前に出てのゲッツー体勢。森から見ると左側へ打球が飛んだ。ダイビングするほどの距離はない中で、森はスライディングしながら捕球。この時、しっかりグラブを下から上に使っており、うまく捕球していた。何よりも打球への反応が良かった。すぐに二塁手にトスして併殺に仕留めた。

これで7回裏に伊藤裕に勝ち越しホームランが出て2-1と逆転に成功している。試合の流れを呼ぶ、もしくは流れを変えるプレーはとても重要だ。この試合では、同点に追い付いた森の好走塁と、併殺に仕留め伊藤裕の勝ち越し本塁打につなげた森の好守備は、いずれも流れを呼ぶプレーだった。走塁も守備も、森の持ち味である俊敏性と判断の良さが光った。

昨秋10月、はじめてイースタンで森を見た時に、中堅へ抜ける打球に飛び込まない姿勢を厳しく指摘したことが思い出される。その後、巨人や西武、日本ハムを見に球場に足を運んできたが、対戦チームがDeNAであれば、やはり自然と森の動きに目が行く。最初に見た印象が強いのかもしれないが、少しずつ森の守備、走塁に対する意識が高くなってきたように感じる。

この日の試合だけですべてを把握したような評論はできないが、実際に見た試合の動きは重要な生きた情報だ。森が相手の動きを瞬時に見て判断したスキのない走塁、果敢に打球にトライする反応と思い切りの良さ、こうしたものはたまたまできるものではない。日ごろの練習から取り組んできたことの延長に公式戦があるわけで、そういう意味で森の成長を感じることができた。

これからも、同じようにアグレッシブに、少しでも可能性があるならチャレンジする動きを続けてもらいたい。1軍昇格、そして定着を目指しこの実戦において、際どい瞬間での感覚をさらに磨いてほしい。(日刊スポーツ評論家)