<イースタンリーグ:DeNA11-0ヤクルト>◇11日◇横須賀

捕手で通算出場1527試合、引退後は4球団で計21年間を過ごし、合わせて42年間をプロ野球で生きてきた田村藤夫氏(61)が、DeNAの左腕東克樹投手(25=立命館大)のピッチングに来季復活の兆しを見た。

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チェンジアップという特殊ボールをかなり高いレベルで操っていた。もともと1軍ローテーション投手だけに、ファームでこれだけのピッチングをするのは当然だと感じる。チームとして、来季へ明るい材料だ。

東は7回を投げ94球で5安打無失点。9三振のうち空振りが6。そのうち5個がチェンジアップ。減速がよく利いた、ボールの抜けのいいチェンジアップだった。

その代表的な例として3番西田(一塁)との対戦がある。第1打席は初回2死走者なし。初球外角ストレートがボール。2球目は外角ストレートでストライク。3球目は内角スライダーをファウル。4球目は内角ストレートがボール。5球目は内角ストレートをファウル。6球目はスタンドから判別できなかったが、内角ストレートかスライダーがボール。カウント3-2から7球目。外へのチェンジアップを見逃し三振。

この打席では勝負球の7球目までチェンジアップを見せていなかった。西田はハッとした様子も、手が出なかったように見えた。左腕のチェンジアップは右打者の外角低めへ決めるのが理想で、東も低めを意識して投げたと思う。良くブレーキが利いた抜けたチェンジアップだったが、制球はやや高くなった印象だった。

6回2死走者なしで迎えた第3打席は、カウント1-2と追い込んでからチェンジアップで空振り三振に仕留めた。この打席では2球目、3球目にチェンジアップを見せている。西田は4球目、5球目のインコースへのカットボールで、第1打席と同じように内角を意識させられ、チェンジアップに対応できなかった。

この日の東はストレートが最速145キロ。手術前は148キロは出ていたと思うが、それに比べるとあと2~3キロは出るのではないかと感じる。そこに126~8キロのチェンジアップとなれば、打者は苦労する。

腕がよく振れていた。腕の振りは非常に大切で、打者は、変化球で腕の振りが鈍くなると、このわずかな違いで球種を見分けて対応してくる。この日の東のようにストレートと変わらない腕の振りをされると、緩急をつけられることで、対応が難しくなる。

東のピッチングは内容が良かった。第1打席では勝負球までチェンジアップを見せずに、組み立てている。まず1、2球目でストレートを外角に投げ、外のストレートの印象を与えている。そこからインコースにストレート、変化球を4球続け、打者に内角を意識させた。最後に外角へチェンジアップ。内角を意識させられた西田からすれば手が出しにくくなる。さらに初球、2球目のストレートの軌道があるため、18キロ前後の球速差のあるチェンジアップに惑わされる。

冒頭で説明したように、チェンジアップは奥行きで勝負できる特徴のある変化球だ。スライダーやフォークはベース手前で横にスライドしたり、落ちるなど変化する。しかし、良く抜けたチェンジアップは、なかなかボールがベースに到着しない。それもストレートとの球速差があればあるほど、チェンジアップは効果的になる。打者はこの時間差にタイミングを狂わされる。スライダーやフォークとはまたひと味違った対応が求められる点で、やっかいなボールになる。

捕手出身の私には「仮にバッテリーを組んだなら楽しいだろうな」と、思わせる内容だった。内角を意識させたり、外角にストレートの軌道を見せたりしながら、打者の意識や残像を効果的に使いながら、勝負球のチェンジアップで打ち取る。この日の東はストレート、変化球ともに制球のレベルが高く、受ける捕手からすれば、配球を組み立てる上で、いろんなアプローチが可能になる。そういう意味で、印象に残るピッチングだった。

1軍でシーズンを通して成績を残す投手だ。今後はストレートの強度を増すことが必須になる。4回までは145キロは出ていたものの、6回以降はアベレージで140~41キロと球威が落ちた。チェンジアップの抜け具合が良かっただけに、このピッチングを1軍に当てはめれば、試合終盤の勝負どころでチェンジアップを有効に使うためにも、ストレートの球威をもう少しキープできないと苦しい。今のままでは序盤は良くても試合終盤につかまる可能性がある。

5本のヒットを許しているが、そのうち3本は右打者のスライダーが甘く入り打たれている。左腕の東が右打者にスライダーを投げるなら、もっと内角を厳しいコースに投げなければヒットゾーンに運ばれる。2本の二塁打を許しているが、いずれも左翼線へのものだ。もっと厳しいコースに制球していれば、ファウルになっていたはずだ。これは今後の課題だろう。

奥行きのあるチェンジアップがあれば、こんなピッチングができるんだと感じた。左腕の完成度の高い特殊球の有効性を、再確認する東の好投だった。(日刊スポーツ評論家)