田村藤夫氏(62)が、フェニックスリーグ取材から日本ハムの高卒3年目・柿木蓮投手(21=大阪桐蔭)のピッチング内容を解説する。

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昨年見た時の柿木は、球速が140キロ未満でちょっと物足りなさがあった。その印象が残っていたからかもしれないが、18日に見た日本ハム-オリックス戦では最速142キロ。球速は3~4キロほど上がっており、力強さは出てきた。柿木を継続して見てきたわけではない。単発的に見た試合から探ることになるが、この秋に見た3年目のピッチングを解説する。

6回を投げて1本塁打を含む3安打で1失点。三振3、四球2という数字。先頭打者を出さず、喫したホームラン以外はまとまっていた。変化球はフォーク、スライダー、カーブ。ストレートで奪った空振りは2球。高めのストレートで、1軍では空振りを奪うのは難しい球威だった。

チームには同じ高卒3年目右腕の吉田がいる。2人を比べると、球威、変化球の多彩さなどから、総合的に吉田の方が上に感じる。スピードは吉田が149キロで、力強さが増したとはいっても柿木は142キロ。この7キロの差は軽視できない。そして、吉田は柿木にはないカット、ツーシームがある。大きな差とは言わないが、同じ右腕でどちらが1軍により近いかと言えば、吉田になるだろう。

これからいきなり柿木が140キロ後半を投げるようになるかは微妙だ。では、柿木のどこを強化すべきか。まず、柿木にはしっかり考えるべきものがある。何を武器にしてこの世界に食らい付いていくのか。何でプロで食べていくのか。自分を客観視して進むべき道を見つけてもらいたい。

柿木のピッチングに、ひとつの可能性を感じた。右打者のアウトコース、左打者のインコースへのスライダーだ。このボールで5球の空振りを奪い、11球のファウルを打たせている。

打たせたと書いたが、そこは柿木が突き詰めなくてはいけない部分で、仮に意図してファウルを打たせたものでなければ、このボールの意味は半減する。カウントを稼ぐファウルでなければならない。

カウントも稼げて、そして勝負どころでは空振りも取れる。そんな精度のスライダーに磨いて行けば、柿木の道のりに光が差してくる。

ここで故野村克也さんの言葉がよみがえってくる。「対になるボールをつくれ」。野村さんは良くそう言っておられた。スライダーとシュート。ストレートとフォーク。ストレートとカーブ。

対になるというのは、ボールの性質が対局にあるということで、右打者の内角を起こすシュートがあるからこそ、外角のスライダーがより遠くに感じる。伸びのあるストレートがあるため、打者はフォークの落差に対応できない。ストレートのスピードがあるからこそカーブで緩急が生まれる。

もうひとつ、連想する投手がいる。元中日の吉見だ。球速は140キロちょっと。それでも、見事なコントロールでストレートを軸に、スライダー、シュート、フォークを自在に操った。そして、彼が一時代を築けたのは、「球持ち」が良かったからだ。

球持ちとは、なるべくバッターよりのポイントでボールをリリースすることを言う。だから、変化球もよりバッターの近くで変化する。ゆえに、打者はミートしづらくなる。

柿木に話を戻すと、この試合でストレートはベルト付近からやや高いように見えた。私はスタンドから見ているので、断言はできないが、打者のファウルの打ち方を参考にすると、ベルト付近のボールが多かったように見えた。

最速142キロのスピードでベルト付近では、1軍では通用しない。この球速で勝負するには、ベルト付近よりもボール1個半以上低く、そして外角か、内角に投げ分ける、最低でもそれくらいのコントロールが必須になる。それは誰よりも柿木が強く自覚しているはずだ。真のコントロールを会得することだ。

吉見がどうして球持ちが良かったのか。私は彼の下半身の粘りがあったからだと感じていた。体重移動をしながらギリギリまで下半身で踏ん張ることで、上半身にその力を伝え、上半身でもギリギリまで粘り、リリースポイントを少しでも打者よりにできたのだろう。さらに、彼特有の肘の柔らかさで、腕が遅れて出てくるフォームが打者を苦しめたのだ。コントロールがいいという単一の理由だけでなく、球持ち、下半身の粘り、腕の遅れ、そうした複合的な要素が相まって、吉見の制球は成立していた。

今の柿木には何があるのか。私にはスライダーにひとつの可能性を感じる。それが単一の特長で終わるのか。そこに2つ目の武器が加わってくるのか。投手柿木を作る作業は、まだこれから。そして、生きる道をいつまでも探っている時間は多くない。(日刊スポーツ評論家)