中日のドラフト4位・山浅龍之介捕手(18=聖光学院)が楽天との練習試合でスタメンマスクをかぶった。田村藤夫氏は自宅でテレビ観戦。山浅は試合中盤の大事な場面でパスボール。ここから何を学ぶべきか。田村氏が高卒ルーキー捕手の避けては通れない試練を解説する。

中日対楽天 3回表楽天無死一塁、小深田の二塁盗塁を阻止する山浅(左)(撮影・森本幸一)
中日対楽天 3回表楽天無死一塁、小深田の二塁盗塁を阻止する山浅(左)(撮影・森本幸一)

どうしてもまず最初に思うことがある。まだ高校生で、この時期に1軍のキャンプにいる、そのこと自体がすごいことだと。私の過去の経験を踏まえ、またコーチ時代に見てきた新人捕手の悪戦苦闘ぶりからすると、18歳がこうして1軍の練習試合に出場していることが驚きである。

昨年のロッテ松川のように、あれよあれよという間に開幕1軍、そして正捕手へと階段を駆け上った姿を重ねたくなるが、やはりそうそうあることではないだろう。もちろん、そうした快挙を期待はしているが、まずは試合の中で分かる収穫と、反省点こそが、山浅を成長させると感じた。

3回、山浅は素晴らしいセカンドスローを見せる。一塁走者は俊足の小深田だった。スタートは良かった。しかし、右打者の外角低めのまっすぐ系を、山浅は左膝が地面につきそうになりながら、こらえて右足のステップにつなげた。

いわゆる、たたくという表現になるが、しっかり上から送球して、二塁ベースの上、それもタッチプレーに入ったショートの腰のあたりへの理想的なコントロールで、小深田を刺した。

これは自信になるだろう。刺した走者が小深田であること、スタートも良かったこと、そして柔軟性が求められる姿勢で捕球してから、素早い動きで送球し、かつ正確なボールだったこと。この一連の動きは、山浅のポテンシャルの高さを示している。

左膝が地面につかなかったことが大きい。よく我慢して右足に体重を移せた。できそうだが、なかなかできない。やはり下半身の柔軟性があるからこそで、捕手としては武器になる足腰の柔らかさと言えた。

中日対楽天 4回表楽天2死三塁、捕球し損ねたボールを追う山浅(左)(撮影・森本幸一)
中日対楽天 4回表楽天2死三塁、捕球し損ねたボールを追う山浅(左)(撮影・森本幸一)
中日対楽天 4回表楽天2死三塁、パスボールで失点しさえない表情の山浅(左)(撮影・森本幸一)
中日対楽天 4回表楽天2死三塁、パスボールで失点しさえない表情の山浅(左)(撮影・森本幸一)

乗っていけるプレーがあった直後、4回に今度は正反対の試練のイニングになる。三塁に走者を置いた場面で、左投手が左打者の外角に投じたスライダーを、ミットに当てて後ろにそらした。パスボールで1失点。さらに満塁から、ワンバウンドを止められずこのイニング2点目を失った。

試合は4回の2失点とその後の3失点で逆転されており、特にこのパスボールとワイルドピッチでの2失点が痛かった。山浅の表情が青ざめていたように感じた。無理もない。これが公式戦ならば、手痛いミスとなる。黒星に直結するパスボールになっていた。

パスボールの場面は、左投手橋本の恐らくスライダーだと思うが、曲がり方が山浅の予測を超えていたのだろう。ミットに当たっているところから察するに、ボール半個分から1個分、構えが甘かった。ただし、これは捕手である以上、高卒、大卒に関係なく、通らなければならない道だったとも言える。

キャンプに参加しているすべてのピッチャーのボールを受け、そのすべての球種をよく把握しておかなければ、こういうことは起きる。それも、ブルペンと試合では、変化球の曲がり方もまったくの別物になってくる。ブルペンよりも、曲がるタイミング、曲がる量が変わってくれば、こうしたミスは起こる。

これは、経験しなければ克服できないもので、むしろ山浅はこう考えた方がいいかもしれない。プロのピッチャーのボールは、試合の正念場ではブルペンとはまったく別の変化をしてくると。それを、この2月のキャンプで体感したことは、山浅にとっては得難い財産になったとも言える。

まず、捕手は守ることが求められる。打力があれば、いくらでもチャンスは与えられるだろうが、捕手である以上、ディフェンス面の基本スキルは必須だ。その下地の中でもキャッチング、ブロッキング、スローイングはもっともベーシックなもので、それをしっかりマスターするには、チームメートのピッチャーのボールをどれだけ受けたかが大切な要素になる。

やるべきことはたくさんある。そして、試合の中では一瞬のうちに、初めて直面するケースが出てくる。そこにいかに対応できるか。そのヒントになるのが、この試合での痛恨のパスボールであると、今の山浅にはアドバイスしたい。

こういう変化をするのかという驚きを、やがて、どんな変化をするか分からないから備えようと、心構えできるように。このパスボールから学べるものは、プロの捕手としては、とてつもなく大きい。(日刊スポーツ評論家)

中日対楽天 3回表楽天攻撃終了、ベンチへ戻る(左から)山浅と橋本のバッテリー(撮影・森本幸一)
中日対楽天 3回表楽天攻撃終了、ベンチへ戻る(左から)山浅と橋本のバッテリー(撮影・森本幸一)