173センチ、57キロ。四国6大学リーグに所属する高知工科大の新宅真弥内野手(3年=広島新庄)。昨秋発表された大学日本代表候補の中にひときわ細身で小柄な選手が、多くのドラフト候補たちとともに名前を連ねていた。

現役生活は4年前の夏に終わっているはずだった。「本当は大学で野球をやるつもりじゃなかった、というのが本音です」。甲子園に行って野球を辞める-、そう決めていた。3年夏の広島大会決勝、中村奨成(現広島)を擁する広陵と対戦。勝てば甲子園。5-6と1点差まで追い上げた「6回か7回」と記憶している。2死一、三塁の好機で新宅に打席が回ってきた。だが、告げられたのは代打交代。「それが今、大学野球を続けているところにつながります。悔しかったというのもあって、やめきれなかった」。強豪じゃなくていい、野球を続けられるなら-。その一心で引退後、すぐに大学探しをスタート。当時、四国6大学リーグで上位進出が続いていた高知工科大が目に留まった。全面人工芝のグラウンド、整った設備にも引かれた。

俊足巧打のユーティリティープレーヤーで、高校時代から内外野兼任。背番号こそ1桁だったが、当時は「スーパーサブ」だった。大学でもその万能性は生き、内外野を守る。「守れるポジションが多いのが僕の強み。使い勝手の良さ、1人いるだけで多彩なポジションをこなせる」と自信を持つ。

役割を理解した上で、足が武器だと思っている。「どれだけ先の塁を狙えるのか、というのも僕が選んで(代表候補に)いただけた理由なのかなと」。昨秋のリーグ戦で放ったランニングホームランの本塁帰塁タイムは、手動測定ではあるが、驚きの「14秒52」。日本球界で足のスペシャリストとして君臨するソフトバンク周東が、20年3月に広島とのオープン戦で計測したタイムに匹敵する。「(選出に)それが大きいんじゃないかというのはあります。体も小さいので長距離打者は勝てる相手ではないと分かっている。何か違うことをして印象づけたい」。

残念ながら大学日本代表候補の合宿はのちに新型コロナウイルスの影響で中止となったが、今は四国から日本一を目指す戦いに集中している。「チームとしては神宮出場、リーグ戦で優勝するのを1つの目標としています。2年前は負けてしまった。神宮で勝ち上がっていきたい」。大きな夢とは言わせない。「やるからには向上心を持ってやりたい、というのある。プロを目指してやることで、社会人野球や先の選択肢もあるので、野球を続けたい」。17年夏に始まった「延長戦」を新宅は思う存分、戦っている。【望月千草】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)


◆新宅真弥(しんたく・まさや)1999年(平11)7月14日生まれ、広島市出身。五日市観音小3時に五日市観音少年野球クラブで野球を始め、五日市観音中では五日市少年野球シニアクラブに所属。広島新庄では2年秋の中国大会からベンチ入り。3夏は県決勝で敗退。甲子園出場経験はなし。高知工科大では1年秋から定位置を取い、2季連続で遊撃手でベストナイン。昨秋は二塁手でも受賞。50メートル6秒3、遠投100メートル。173センチ、57キロ。右投げ右打ち。


◆高知工科大 1997年(平9)設立の公立大。野球部も同年創部。15年春に1部リーグに昇格、18年秋に初優勝。19年春も優勝を飾り、全日本大学野球選手権に初出場。初戦で大体大(阪神大学リーグ)に延長10回タイブレークの末に2-3で敗戦。現在は選手46人、学生スタッフは女子マネジャーを含む8人の54人で活動中。

大学日本代表候補に選出されていた高知工科大・新宅真弥内野手
大学日本代表候補に選出されていた高知工科大・新宅真弥内野手