ついにこの時が来てしまった。「新しいバット、買わないといけないみたい」。父の威厳を失うまいと「お、そうだったな」と動揺を押し殺した。

お気に入りメーカーの主力商品は税込3万9600円。普段、グラブなど野球用具を買う時は驚くほど財布のひもが緩むのだが、正直に言うと、今回はいつものワクワク感とは正反対の感情が湧いた。

高校野球の新基準バットである。来春のセンバツから一斉に移行される。反発を抑えるために最大径が4ミリ細くなった。ついこの間まで毎日握っていた愛用バットは、太さが違うから素振り用にもならない。

安全性に特化した規格変更。過去に起きた事故の経緯や、投手の健康に配慮した日本高野連の意図は、よく理解しているつもりだ。長い研究開発、材料費の高騰などでこの金額になってしまうことも聞いた。日本高野連は経済的負担を減らすため、約2億5000万円の予算で全加盟校に2本ずつ新バットを配布した。現場からは「本当にありがたい」の声も聞かれる。

しかし、慣れるためには練習で使い込まないといけないので、やはりチームにかなりの本数が必要になる。最終的には部員に負担がいく…。もちろん必要経費だし、安全をお金で買うのだと思うしかない。

飛びを追求してきた各メーカーも「飛ばないバット」をリリースするのは複雑だろう。旧基準に近い打球音を売りにしたものが登場するなど、開発競争は激化している。新しいバットを手にした球児が、変わらず「早く打ちたい」と胸躍らせることを願ってやまない。【アマ野球担当=柏原誠】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)

新基準のバット(2023年5月撮影)
新基準のバット(2023年5月撮影)
2023年11月、明治神宮野球大会で新基準の低反発バットでスイングする北海・大石
2023年11月、明治神宮野球大会で新基準の低反発バットでスイングする北海・大石