阪神球団首脳との何げない雑談で「へえ~?」と驚き、次に「そら、そうか」と思ったのは今年、正月明けのことだった。何にそんな反応をしたのか。「優勝旅行」についてだ。

指揮官・矢野燿大は「阪神は優勝することになっている」「日本一になることが決まっている」などと就任以来、繰り返す。これは矢野が信じる「予祝」という行為によるものだ。

期待すること、希望することを願うというよりも「既に決まっている」と考え、あらかじめ、口にする。別に矢野が考えたことではなく、日本では古来、そういう考えがあるという。

矢野はすでに優勝旅行の行く気だ。なので幹部に「優勝旅行はハワイでしょ? 早めに予約しないと?」と聞いたのだ。

するとこう答えるではないか。「もちろん、それはしますよ。というか毎年、早めに予約してますから」。阪神が毎年、優勝旅行を予約している? そうなのか? 思わず「へえ?」と言ってしまった。

しかし落ち着いて考えれば当然でもある。大人数での団体旅行、しかも12月のハワイとなれば人気。ぼやぼやしていると予約できないことになる。「そらそうか」と納得した次第だ。

同時に意地悪な考えも頭に浮かんだ。阪神は05年を最後に優勝していない。その後、旅行の予約はどうしているのか。キャンセルはどうしてきたのか。そんな質問に「そこはしかるべきタイミングで。粛々と」という政治家風に答えた。

今年はコロナ禍だ。12月の渡航状況がどうなっているかは分からない。気になる。先日、ある機会を見て同じ人物に確認した。今年も予約するのか。

「この状況ですが特に例年と違うということはありません。もちろん予約します。コロナの影響で行けないとなれば、それはそのときに考えますけれどね」

そういう答えだった。ハワイに行きたい。でも行けるかどうか。そんな悩みがこの冬、阪神に起こるかどうか。無観客試合でスタートする開幕だが、捕らぬタヌキのなんとやら…でそんなことを考えていると、なんだか、楽しい。

「春風や闘志抱きて丘に立つ」(高浜虚子)

3カ月も遅れ、季節は梅雨になってしまったが野球を迎える気持ちはやはり春だ。監督も選手もファンも関係者も、いろいろな体験を乗り越えて、さあ、開幕だ。(敬称略)