広島から大リーグ、そして広島に戻って活躍した右腕・黒田博樹は打球に手や足を出すことで知られた。センター返しの球に足を伸ばし、右手さえ出した。

「ケガして投げれんようになったらそっちの方があかんのでは?」。かつて、そう聞いた。「そうなんですよ。でも本能というか自然に出てしまうんですわ」。黒田はそう答えた。

すさまじい、と思ったものだ。その黒田から「火曜日に投げる投手の意味」についても聞いた。「1週間の戦いが始まる火曜。そこできっちり投げたらチームに勢いが出る。だから大事なんです」。今では誰でも言うがレジェンドから聞くのは重みがあった。

阪神は完敗だ。勝負の分岐点は7回と思う。この回、梅野隆太郎のピッチャー返しの球に巨人菅野智之は右足を出して止め、投ゴロに仕留めた。相当、痛かったようでいったんベンチに戻ったが気合の入った表情でマウンドに戻ってきた。

そして打者は木浪聖也。そこで思った。バントで揺さぶれ、と。実際に転がすかどうかはともかく構えはして菅野を走らせろ、動かせろと思った。そう言うとファン、特に若いファンは「そんなラフなことを」と思うかもしれない。

だが、そうしても菅野は怒らなかったと思う。自慢のフィールディングで対処し、アウトにしてもセーフになっても、さらに表情を引き締めたはずだ。その覚悟で戻ってきているのだし、それがプロと知っているからだ。だから火曜に投げてくるエースなのだ。

そんな菅野に対して木浪は普通に打って二ゴロ。続く植田海は初球こそバントの構えをしたが遊直に倒れた。勝負は決まった。8回、木浪にミスが出てダメ押しされたのは皮肉だったとしか言いようがない。

はっきり書くが菅野に比べれば木浪、植田は格下だろう。横綱に挑戦する平幕力士だ。そこで五分に構えていてどうする。一瞬、弱みを見せた相手に執念で食らいついていかなければ勝機は生まれてこない。

対して巨人だ。8回無死一、二塁で坂本勇人にバントの構えをさせた。結果は重盗&ヒッティングだったが若い馬場皐輔を揺さぶってきた。そこから4得点。これが勝負だ。マスクをした敵将・原辰徳の視線が鋭かった。

3連敗も予感させる完敗である。流れを変えるのは藤浪晋太郎の爆発的好投しかない。強く、そう思う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)