猛虎次代のエース高橋遥人が巨人の現役バリバリのエース菅野智之に挑んだ投手戦は見応えがあった。緊張感あふれるゲームは巨人の若き4番・岡本和真の一撃で決まった。0-1。投手戦は得てして、こういう結果になる。

連打が出ないので1発、本塁打が流れを決定づける。それをまざまざと見せつけられた。その意味では菅野に歯が立たなかった4番・大山悠輔が岡本に負けた試合だったかもしれない。

この日、阪神で生え抜き4番を張り、先日、野球殿堂入りした田淵幸一の表彰式が都内で行われた。田淵の名前を聞けば思い出す出来事がある。親友である闘将・星野仙一とのタッグで阪神を18年ぶり優勝に導いた03年のことだ。

当時、チーフ打撃コーチの肩書だった田淵が力を入れていたのは浜中おさむ(当時)の育成だった。生え抜き4番打者を育てようという星野の意図をくんで熱心に指導していた。

話題だったのは「うねり打法」という田淵独特の表現だった。下半身からの捻転でパワーを出す打撃を田淵はそう呼んだ。「うねりっていうのが実はよく分からないんですけどね」。当時、浜中は苦笑しながらもキャンプから懸命に取り組んでいた。

オープン戦の時期、遠征先である松山での移動日練習だった。ここで田淵は現役時代さながら、プロテクターにレガースという捕手のスタイルで浜中を指導したのだ。

虎番記者キャップだったこちらはその日、練習に姿を見せなかった星野のマークのため見ていないのだが後輩記者からの報告で驚いた。なんでそんな格好を? 当然の疑問に田淵はこう話したという。

「コーチで脇からどうこう言うだけじゃなく、捕手のポジションから見て、何か気付くかなと思ってね。1度やってみたんだ」

打撃コーチとはいえ、あれほどの大物がそんなことをするのか。いよいよ本気なんや。そう感じたことを今でも覚えている。

エースと4番は生え抜きでというのがプロ野球の理想だ。しかし育てるのは大変だ。大山だって菅野から本塁打を放った経験はある。しかし、この日は完璧に抑えられ、幕引き打者になった。簡単ではない。大事なのは本人はもちろん、周囲があきらめず懸命に育成していくことだ。今季を決定づけるような一戦を受け、そう感じている。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)