マツダスタジアムでの3連敗を避ける、いい勝利だった。「何、当たり前のことを言うとるんや」としかられそうだが、虎党なら、この感覚を分かってくれるのではないか。

「ここに来ると何か見えない力が働いている感じがして…」。マツダスタジアムの魔力について、そう嘆いたのは前監督の金本知憲だ。緒方孝市(現日刊スポーツ評論家)が監督として3連覇を果たした時期にモロにぶつかった。

16年から18年まで広島戦のカード3年連続負け越しはもちろん、特に同球場で苦しめられた。2位に入った17年ですらマツダでは3勝8敗1分けとコテンパンにやられた。すっかり「鬼門」になっていた。

指揮官が矢野燿大に代わった19年、13勝12敗とようやく勝ち越したがマツダでは5勝7敗。そんな流れが変わったのは昨年だ。コロナ禍の変則シーズンで6月に開幕。関東、名古屋での5カードで負け越し、借金8の阪神は7月3日、広島にフラフラで移動してきた。

しかし同日は雨天中止。これでチームの流れが変わり、阪神は連勝した。最終的にシーズン2位になるキッカケとなったのは記憶に新しいところ。そして広島戦は13勝8敗3分けと勝ち越し、マツダでも7勝4敗1分けと勝ち越した。

試合内容もそのものもよくなかった。抜群の防御率を誇る広島投手陣に抑え込まれたのは仕方がないとして、広島らしからぬ走塁ミスが相次いだゲームでの連敗。この点について広島関係者は「あんなことをしていてはいかんですね…」と反省していたほど。

この日も負けて3連敗となっていればヤクルト相手の開幕3連勝の勢いが一気に吹き飛んでしまっていたはず。同時に昨季、払拭(ふっしょく)したはずの「鬼門」という言葉さえ浮かんでくるところだった。

それにしても佐藤輝明である。この日は4月1日。多くの企業で新入社員の入社式が行われた日だ。佐藤輝と同じように大学を卒業した若者たちにとっては緊張した1日だったろう。それを思えば、佐藤輝は2月から阪神の一員となり、すでに2本塁打。すっかりチームの顔になっているのだから、たいしたものとしか言いようがない。

いずれにせよ阪神も、そして広島もシーズンはこれからだ。世のフレッシュマン同様、思い切って行きたい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)