いいね。やっぱり。晴天の下、甲子園で勝って聞く「六甲おろし」は染みる。特に巨人に連勝してのそれは格別だ。合唱こそできないけれど、できる日の到来を待ちたいもの。何より勝たないと聞けないわけだし。これで巨人戦は7勝5敗。およそ「貯金」に縁のない今季の阪神ではあるが「伝統の一戦」だけは「貯金2」となった。

勝利の立役者は間違いなく伊藤将司だろう。ゾロ目の111球を投げ、巨人打線を無四球完封。さらに勝利に貢献したのが“打席”だ。2回につくった1死二、三塁。無死一、二塁から8番・長坂拳弥に犠打をさせ、つなげた場面だった。

併殺はまずない。スクイズも考えられるかもしれないがヘタをすると三塁走者が死ぬ。さらに言えば4月6日のDeNA戦(甲子園)で伊藤将は適時打を放っている。アウトになっても2死二、三塁で復調気配の近本光司だ。いろいろな思いがあって阪神ベンチは普通に立たせたはず。

そこで伊藤将は四球を選ぶのだ。フルカウントから1球ファウルで粘り、外角に外れるストレートを見送った。「おっ!」。甲子園から思わず声が漏れた瞬間だ。もちろんそれに続いた近本、さらに大山悠輔の仕事が大きいのだが絶好の先制機を演出した伊藤将の働きはかなり大きかった。

反対に先発・高橋優貴が投手に四球を出した時点で巨人にはイヤなムードが広がっていただろう。そもそも2人の走者も連続四球だった。無死一塁で糸原健斗がフルカウントになった後の8球目、一塁走者・陽川尚将はスタートを切っていたがタイミングはアウト。しかし糸原はこれを選んで一、二塁にした。糸原の冷静な選球眼が意味を持ったとも言える。

何より今季の巨人戦、阪神打線は多くの四球を選んでいるのだ。ここまで12試合で45四球は対戦別でもっとも多い。1試合で3.75個を選んだ計算になる。もっとも少ない中日が8試合で6個。1試合に1四球も選べていないので、比較すればその多さが分かる。

もちろん理由は巨人の投手陣にあるのだろうが、ここは「伝統の一戦」で集中力が増していると考えておこうか。集中して少ない好機をつくり、それを一気にモノにする。そして投手陣が踏ん張って逃げ切っていく。スカッと打ち勝つ試合も見たいけれど、現状、このパターンが勝利にもっとも近いのかもしれない。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対巨人 完封勝利を挙げた伊藤将(右)は、長坂とグータッチ(撮影・前田充)
阪神対巨人 完封勝利を挙げた伊藤将(右)は、長坂とグータッチ(撮影・前田充)