「明日負けてもエエよ。別に。そんなん。どうってことないやんか」。独断と偏見から言って指揮官・岡田彰布は今季、最高潮の上機嫌ぶりだった。いつも勝てるわけがないとは常々、口にするがこんな言い方までするのは初だろう。そこに岡田の真骨頂がある。ルーキー・森下翔太のサヨナラ打だけがその理由ではない。どういうことか。

まず21日の同カードに先発する才木浩人の話からだ。岡田は才木のメンタルを気にしていた。開幕ローテ入りした今季だがここまで5試合で1勝3敗と結果を残せず、ファームへ。そして21日に4月30日ヤクルト戦(神宮)以来の復帰登板を果たす段取りだ。

才木の緊張は当然だし、なにより連敗して「3連敗は避けたい」という状況にさせるのが岡田はイヤだったのだ。だからこそ、この日の勝利は重要だった。1勝1敗にすることが最大の課題だったし、それができたからこその「負けてもエエよ」。これで才木は思い切っていける。

以前から書いているが、その底流に流れるのは「選手にとって不要なプレッシャーはなるべく除いてやる」という岡田の思想だ。この日、最大のヒーローとなった森下翔太の起用についても同様である。前日19日に昇格してきた森下。その日の相手先発は左腕の玉村昇悟だったので、そこでもよかったはず。だが1日置いてのスタメン。そこにも同じ考えがある。

「ファームでヒット打っとるしな。玉村とは当たってないやろ?」。指揮官だから当然だが、言う通り、森下は広島・森下暢仁から2軍で2打数1安打。玉村とは未対戦である。1度でもマッチアップした経験のある方がいいというのが持論だ。そこに加え、冗談抜きで「森下対決は注目される」という意図もあったはず。

大の野球好きで、昨年までの評論家感覚が取材への応対でよみがえってくる感じの岡田。この日、好投した両先発投手の“今後”についても推測した。

「大竹(耕太郎)は勝たせてやりたかったけどなあ。せやけど森下がこれで勝てんかったのはきっついぞ。しかし、9回まで行かすかなあ…」。心配する必要はないのだが、そんな感じで話したのである。

いずれにしても若い森下翔太と森下暢仁の「森下対決」は今後の球界で続くはず。それを最初に演出した岡田の功績も残るのだ。(敬称略)

試合前の練習で笑顔を見せる阪神岡田監督(撮影・上山淳一)
試合前の練習で笑顔を見せる阪神岡田監督(撮影・上山淳一)
阪神対広島 阪神岡田監督(左)はサヨナラ打を放った森下(右)を祝福する(撮影・上山淳一)
阪神対広島 阪神岡田監督(左)はサヨナラ打を放った森下(右)を祝福する(撮影・上山淳一)