的確な分析力でチームを支えるプロフェッショナルがいる。楽天の行木(なめき)茂満スコアラー(41)は、相手投手の傾向や対策を打者に伝える野手担当として、13年の日本一にも貢献した。試合中にはベンチ入りし、データと洞察を基に首脳陣と狙い球を相談する。その判断力は、今やチームに欠かせない戦力となっている。

(2016年5月21日付紙面から)

ベンチから試合を見つめる楽天の行木茂満スコアラー
ベンチから試合を見つめる楽天の行木茂満スコアラー

楽天 行木スコアラー

 仮に4分割したストライクゾーンに5通りの球種が投げ込まれるとしたら、打者は20分の1に絞ってスイングすることになる。同点で迎えた9回裏1死一、二塁。何とかしてサヨナラ打を放つためには、何球目、どのコース、どの球種を狙えばよいのだろうか─。

 そんな決断を助けるために、野手担当の行木スコアラーはデータと格闘する。

 「例えばチャンスの時に相手が何を投げてくるか。打者1人1人に個別のデータを用意して、傾向と対策を必ず立てる。結果的に選手の決断の後押しをしてあげられたら、最高ですね」

 事前の準備がものをいう仕事だ。試合前練習開始の1時間ほど前、野手全員との個別ミーティングが始まる。相手投手の投球を編集した映像を使い、カウントに応じた球種やコースの傾向と対策を伝えていく。球団の専門部署が集めた映像と、先乗りスコアラーと呼ばれる別担当が作成した試合の報告書を基に攻略法を構築。分析対象は先発、リリーフ、相手守備など多岐にわたる。膨大な量のデータをかみ砕き、考える。

 「選手に何を伝えられるか。ここ数年は球種が増えて、狙い球が絞りづらいんです。昔は、このカウントなら何%でスライダーが来るとかハッキリ確率が出た。でも今は真っすぐとスライダーを一緒に考えて、ゾーンで絞ったりと球種を整理しなければいけない。数字と材料を提供して、狙い球を確認していくんです」

 選手全員に自信を持って打席に入ってもらうため、伝え方には工夫を凝らす。

 「あまり情報を入れたくない選手に細かく言うと逆効果になる。その場合は『この球種が来るからファーストストライクから思い切っていこう』など、いいイメージを持たせるようにします。好投手に対する不安要素から入る選手もいる。精神面をプラスにすることをまず考えています」

 鋭い洞察力が欠かせない。試合中はベンチ入り。観察眼を基に、攻略法を首脳陣と構築していく。

 「その日の相手投手の傾向をなるべく早めに察知する。過去の試合で全然だった真っすぐが150キロ出たり、事前のデータと違うことがあります。点が入らないまま回が進むと、選手が焦り出す。そういう時に、ベンチではっきりと『この球を狙おう』と伝えられるようにしたいんです」

 元プロ野球選手ではない。関東第一(東東京)では野球部に所属し、卒業後にスポーツのデータ分析を行う会社に就職。分析力を請われて08年から現職を務める。見て、分析するプロとして、チームを支える。

 「野球を漠然と見るのではなく、キャッチャーの動きや構えから球種などを洞察していくと、野球が面白くなると思います。結果というよりも過程で、自分の直感とデータを基に傾向通りの球が来た時はうれしいですね。そして選手が打ってくれたら最高です」

 勝利の確率を高められる今の仕事に心からやりがいを感じている。【松本岳志】