大学野球に「準硬式野球」というカテゴリーがある。ゴムで覆われた、硬式に近い芯が入った「準硬式球」を使って行う野球だ。バットは硬式用。金属バットの使用が許されている。全国の大学で282チーム、約1万人が登録している。

西武が今年のドラフトで福岡大準硬式野球部の右腕、大曲錬(4年・西日本短大付)を5位指名し話題となった。「硬式より4~5キロ球速が遅くなる」といわれている準硬式の球で154キロを計測したことがプロの目に留まった。過去には西武、広島で210試合登板した青木勇人(同志社大)、2017年にプロ入りした鶴田圭祐(帝京大-元楽天)、坂元工宜(関西学院大-元巨人)などがいる。プロ入りも不可能ではないことや、学業・アルバイトと両立して野球を続けられること、実習の多い医学部の学生が参加しやすいことなどで、準硬式を選ぶ学生が増えている。メイン大会となる8月の全国大会は71回を数え、硬式の全日本選手権、明治神宮大会に負けない歴史を誇っている。


■中央大が関東王座決定戦で連覇。V投手近野の思い

そんな準硬式が、今シーズン最後の主要大会となる「第42回関東王座決定戦」を行った。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で社会人チームは不参加となったが、関東5連盟(69校76チーム)のリーグ戦上位10チームでトーナメント戦を行い、11月15日の決勝で中央大が日本大を3-2で破って連覇した。

2年連続の優勝投手、近野佑樹(2年・浦和学院)は「自分みたいな、高校時代に悔しい思いをした人が準硬式に向いていると思う」と話した。近野は浦和学院3年夏に甲子園100回記念大会に出場し、8強入り。しかし、埼玉大会を通じて1度も登板はなかった。「渡辺(勇太朗、西武ドラフト2位)や河北(将太、東洋大2年)らがいて出番がなかった。ケガもあった。このままで終わりたくないと思っていました」。高校時代は“4番手”。でも諦めなかった。「器用な投手だったので、いろんなボールを扱えると思った。将来的にまだ伸びしろがあると思い、準硬式を勧めました」と森士監督(56)は進路選択の経緯を語る。「ボールがちょっと軽くて肩ヒジへの負担が少ない。球速がなくても、三振が取れなくても、コントロールを磨けば打者を抑えられる」と近野。高校時代果たせなかった日本一を取ることが目標だ。


■「コロナだから諦めるのではなく、何ができるか」

優勝した中央大・池田浩二監督(54)は喜びよりもまず「大会を開催してくれた連盟役員、学生スタッフに感謝したい。選手一人一人の学生野球の思い出が作れました」と謝辞を述べた。準硬式も夏の全国大会を含む「全国3大大会」が中止となった。しかし、関東連盟の学生委員20人が中心となって、春、夏、秋の代替大会を計画。計20回以上のZoom会議で案を練りながら、感染予防ガイドラインを作成。グーグルフォームを使って全出場選手の体温管理、新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」の登録徹底、球場での除菌消毒、運営費に関するスポンサー集め、公式インスタグラム、「一球速報」による結果配信など、全ての活動を学生主体で行った。

委員の片桐菜摘さん(4年・慶応大)は「全員に担当を決めて、何もしていない人が誰もいない状態だった。『コロナだからあきらめようではなく、コロナだから何ができるか』を皆で考えた」。若狭百華さん(4年・日本大)は「前例がない中で、先のことを読んで、考える力が付いた。何が起こるかわからない野球の競技性と重なる部分が多く、いい勉強になった」と振り返る。

井上広委員長(4年・慶応大)は「本年度の初めに『高校生に向けて準硬をPRしていく』というテーマを掲げた。コロナは想定外だったが、その中で学生たちが考えて3大会を行えた実績は大きい。後輩にもつなげたい。11月21日は横浜スタジアムで早慶戦を計画しています」と話した。

コロナ禍の中、ときに大人の手も借りながら、チャレンジスピリットを見せてきた準硬式野球の学生たち。自立した学生たちの姿がそこにある。【樫本ゆき】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「いま、会いにゆきます」)

横浜スタジアムで初めて関東王座決定戦の試合を行った優勝校、中央大準硬式野球部
横浜スタジアムで初めて関東王座決定戦の試合を行った優勝校、中央大準硬式野球部