サイクルヒットは、いらない。早実(西東京)の清宮幸太郎内野手(2年)が、2戦連発の高校通算52号を含む3長打で24得点の大勝に導いた。第98回全国高校野球選手権(8月7日開幕、甲子園)西東京大会3回戦の秋留台戦に「3番一塁」で出場し、第1打席で先制二塁打。打者一巡して迎えた第2打席で右中間へ特大アーチをかけた。3回に適時三塁打を放ち、単打が出ればサイクル安打だった第5打席は四球を選んだ。初戦に続き、1年生4番・野村大樹内野手とのアベック本塁打で5回コールド勝ちした。

 清宮は個人記録に興味がなかった。二塁打、本塁打、右飛、三塁打で迎えた4回の第5打席。最も出やすいといわれる単打でサイクル安打達成という状況で、1度もバットを振らなかった。「ベンチで『シングルでサイクルだね』と言われたけど、『確かにそうだね』くらいで…。あまり気にしなかったです」。日頃から言い続ける「チームが勝つための打撃」を貫いた。

 チャンスボールは見逃さない。第1打席は無死一、三塁で「投球練習を見て、緩いカーブが来るとわかっていた」。甘く入った5球目を中越えへ運び、フェンス最上部に当たる先制適時二塁打。「センターフライかなと思ったんですけど、伸びました」。会心の当たりではなくても、深い守備位置を取る相手の頭上を破った。

 この回2度目の打席で、真骨頂を披露した。2死走者なしの場面で、カウント0-1から真ん中の直球を振り抜いた。打った瞬間に「行ったと思った」。右中間スタンド芝生席の最上段に運ぶ高校通算52号。「甘いところに来た球を、しっかり1発で捉えられた」。2試合連続アーチを納得の表情で振り返った。

 約束していた1発だった。試合前日、金子銀佑主将(3年)に「ホームラン打ってこい」と声をかけられた。快諾した清宮は、先輩の期待に応えてみせた。4月の春季大会初戦でも、応援に駆けつけた北砂リトル時代の友人に「ホームラン見せてやるよ」と宣言。第3打席で右翼席へ“予告ホームラン”をたたきこんだ。小学生時代から「和製ベーブルース」と呼ばれた17歳は言った。「見ている人が『清宮みたいになりたい』と言ってくれるような人物でありたい。小さい子たちの憧れであることが、ヒーローだと思います」。

 過去は振り返らない。報道陣から「サイクル安打の経験はあるか」と問われると、少し考えて答えた。「たぶん、あると思います」。今夏2戦で打率8割と無敵ぶりを見せつけて大勝しても「自分たちは、油断したらすぐ負ける。全力で戦う相手に手を抜くのは恥というか、やってはいけないこと」。夏の聖地に戻るため、目の前の敵を全力でたたきつぶす。【鹿野雄太】