夏の甲子園10度の出場を誇る古豪福岡(岩手)が水沢を10-4で下し、11年連続で初戦を突破した。旧制中学同士のバンカラダービーは、エース右腕筒井裕吾(3年)が7回2死まで完全投球を見せた福岡に軍配が上がった。二戸市内の学校から盛岡市内まで夜通し歩いて応援に駆けつける「80キロ行軍」が名物のバンカラ応援団をバックに力投した。

 心地よい声援を背に、エース筒井が躍動した。7-0の7回2死まで圧巻の完全投球。あと1人から連続安打を浴びて完封こそ逃したものの、最後まで集中力を切らさず9回8安打4失点完投で粘った。「ここまで来たら三振をとる気持ちで投げたけど、つい欲が出た。甘かった」と苦笑いしつつ「最後は攻める気持ちで勝てた」と胸を張った。

 この日、福岡の一塁側スタンドには、つぶれた学帽にボロボロの学ランをまとった伝統のバンカラ応援団が陣取っていた。相手への威嚇を意味する腕組みで水沢応援団ににらみを利かせ、得点時にはバケツの水をかぶって盛り上げた。熱狂したスタンドから、マウンド上の筒井は目に見えない力を感じとっていた。

 筒井 80キロも歩いて応援に来てくれていた。ほぼ寝てない中、必死に応援してくれていたから、負けるわけにはいかなかった。勇気をもらっていたので、普段以上の力が出せた。

 94代目久慈勝団長(3年)を筆頭に有志を含めた7人が、夏の初戦に行われる同校名物「80キロ行軍」を敢行していた。前日10日の午前6時半に学校のある二戸市を徒歩で出発。2時間の仮眠を挟みつつ1日中歩き倒した。24時間後の試合当日午前6時半に岩手県営野球場に到着し、その後バスで試合会場に乗り込んでいた。

 久慈団長 さすがに盛岡から70キロもある金ケ崎までは歩けません(笑い)。相手の団長も知っているし、応援は意地と意地の張り合い。自分たちの応援が力になってくれてうれしい。

 シード黒沢尻工と激突する明日13日の3回戦(岩手県営)は全校応援。筒井は冷静に意気込んだ。「相手は関係ない。最後まできれいにいかず、泥臭くいく」。応援の力を結集して、古豪復活の足場を築く。【高橋洋平】

 ◆80キロ行軍 県内で3番目に古い1901年(明34)創立の公立伝統校に伝わる夏の風物詩で、初戦前日に出発する。昔はバンカラスタイルに高下駄を履いて歩いたが現在は靴。09年は約100キロの雫石球場、10年は約120キロの花巻球場まで歩いたが、約150キロもある金ケ崎町野球場まで歩いたことはない。水島新司の野球漫画「ドカベン」で、山田太郎率いる明訓高校に唯一土をつけた弁慶高校のモデルとして有名。