1日遅れで球児の夏が始まった。台風5号の影響で順延された第99回全国高校野球選手権が8日、甲子園で開幕した。彦根東(滋賀)は、難病「ギラン・バレー症候群」を乗り越えた4番岩本道徳内野手(3年)がサヨナラ打を放ち、6-5で波佐見(長崎)に逆転サヨナラ勝ちした。夏の開幕戦での逆転サヨナラは59年ぶり2度目の快挙となった。

 難病を乗り越えた男に、勝利の女神がほほ笑んだ。彦根東が1点ビハインドで迎えた9回。5-5に追いつき、なおも2死一、二塁で、4番岩本に打席が回ってきた。甘く入った初球を見逃さず、打球は右前へ。劇的サヨナラにナインが歓喜の輪をつくった。「自分が主役になるって気持ちでした」。その中心に、岩本がいた。

 聖地に立つ感動を誰よりも感じている。昨春、体に力が入りづらくなった。過呼吸の症状が出たことも。病院の診断は手足のまひを伴う難病「ギラン・バレー症候群」。幸い軽度だったが、約1カ月、自宅療養を強いられた。55キロだった握力は一時期、20キロほどに。「握手の仕方が分からへん」と、もらすほどだった。

 「野球が出来なくても、マネジャーでもいいから携わりたい」。苦境に立たされても情熱は変わらなかった。マネジャーの手伝いから始め、昨年6月半ばから練習に参加できるようになった。「主力で出たい気持ちがあった」と冬場の厳しい強化練習も乗り越えた。そんな男が、勝負どころでひるむはずもない。この日、前打席まで4打数無安打だったが、サヨナラ機でも「同点だったので、凡退しても次の回があると思って、思い切って振れた」と弱気はなかった。