憧れの父と同じ舞台に1歩前進した。姫路工(西兵庫)のエース左腕・水谷倖志投手(3年)が、強豪・東洋大姫路を相手に公式戦初完封を飾った。94年に同校のエースとして春夏連続出場した父信哉さん(41)を追って、入学を決めた。プロスカウトが見守る中で三塁を踏ませない会心の投球を見せた。親子での甲子園出場に向け、力強くスタートを切った。

 憧れの父が背負ったエースナンバーが、水谷の闘志をたぎらせた。「打てるもんなら、打ってみい!」。抜群のマウンド度胸でテンポよくストライクを投げ込んだ。伸びのある直球にスライダー、カーブ、チェンジアップを効果的に織り交ぜ、強豪・東洋大姫路を6安打完封した。

 「父からは見習うことばかりで、まだまだ自分は及ばないです」。父信哉さんは94年に姫路工のエースとして春夏連続出場。選抜では同校最高となる8強に導いた。中学3年の秋、オープンスクールで父が甲子園で投げる映像を見た。大観衆の中、懸命に腕を振る若き日の父の姿が脳裏に焼き付く。「度肝を抜かれたじゃないけど、それくらい驚いた」。その日を境に、同じユニホームで同じ舞台に立つことを夢見た。

 技術的な指導を受けることはないが、会話の話題はやはり野球が多い。親子でキャッチボールすることもある。信哉さんは息子の快投を「高校に入ってからは一番よかった。純粋に野球を楽しんでいるように見えました。学校はどこであってもうれしい。描いた夢をつかめるように、(父として)どうできるかですから」と温かく見守った。

 春季大会は左肘痛のため登板を回避したが、最後の夏に回復ぶりを結果で示した。視察した阪神熊野スカウトは「フォームがいいし、肘の使い方が柔らかい。体ができて下半身が強くなれば楽しみ」と評価した。嵐俊哉監督(36)は「ブルペンでの練習に近いものを、試合のマウンドで出せていて安心しました」と納得の表情。水谷は「今日と同じ強気のピッチングをして、みんなで助け合って1戦1戦成長していきたい」と1戦必勝を期す。親子の甲子園出場という夢に向かって、第1歩を踏みしめた。【吉見元太】

 ◆水谷倖志(みずたに・こうし)2000年(平12)7月2日、兵庫県生まれ。小学2年から、地元の豊富ジュニアーズで野球を始める。豊富中では軟式野球部に所属。姫路工では1年夏からベンチ入りし、2年秋からエース。目標とする投手は工藤公康(ソフトバンク監督)。直球の最速は136キロ。178センチ、76キロ。左投げ左打ち。