名将が泣いた。第100回全国高校野球選手権記念大会(8月5日開幕、甲子園)の西東京大会決勝が行われ、日大三の小倉全由監督(61)が、劇的なサヨナラ勝利に男泣きした。同点の9回1死一塁、大塚晃平外野手(3年)が、高校通算21号のサヨナラ2ランで5年ぶりとなる夏の甲子園を決めた。「小倉流」の“食事ケーション”で気持ちを高め、日置航主将(3年)を中心にチーム一丸で頂点を勝ち取った。この日で史上最多となる出場56校が出そろい、8月2日に大阪市内で組み合わせ抽選会が行われる。

 優勝インタビューの冒頭、小倉監督は声を詰まらせた。「この年になって、恥ずかしいんですけど…。選手がよく踏ん張ってくれた」。夏の甲子園を2度制した名将が、インタビュー中に2度泣いた。涙したのは阪神高山らを擁し、全国制覇を達成した翌年の12年夏以来だった。

 指揮官が感極まるほどの、劇的な勝利だった。同点の9回1死一塁、4番の大塚がサヨナラ2ラン。「強打の三高」の看板通りに1回の日置を含め、プロ注目の日大鶴ケ丘・勝又に計2発を浴びせ、試合を決めた。「本当に助けられましたね」。夏の大会の怖さを知るがゆえに、選手たちの奮闘に感極まった。

 「弱かった」集団が、一体感でチーム力を高めた。DeNA桜井ら3年生が抜けた昨夏、小倉監督の「弱いんだから」の言葉からスタートした。旧チームのスタメンは日置のみ。指揮官のタクトと底力でセンバツに出場したが、2回戦で敗退。「弱い」のレッテルはそのままだった。

 「全員で何かをやれば、変わるんじゃないかと思った」。6月、自主練習で日置中心に3年生とメンバー全員の素振りを決めた。午後8時半から約30分間。「強打の三高」らしく、バットスイングの音で会話を繰り返した。大会中も選手でミーティングを実施。観戦した前主将の桜井が「頼もしいです」と話した団結力は、強みに変わった。

 決戦を前にした27日夜、小倉監督を中心に日置主将、上野隆成、中村奎太両副主将の4人でファミレスに出掛け、闘志を注入した。「好きなものを頼んでいいぞ」と食事で場を和ませ、心に訴えかけた。

 小倉監督 人生の中で(高校生で)神宮で試合ができるのも、あと2時間だぞ。集中してやろうな。

 ロッテ吉田ら、歴代の主将、副主将も経験した小倉流の「食事ケーション」で鼓舞した。男泣きの後、大好きな甲子園を思って、笑顔に変わった。「100回の記念大会に出られる喜びを持って、最高の野球をしたいです」。【久保賢吾】

 ◆日大三 1929年(昭4)創立の私立校。野球部も同年に創部。生徒数は1097人(女子381人)。部員数71人。甲子園出場は春20度、夏は17度目。全国優勝は春1回、夏2回。主なOBは元ヤクルト監督関根潤三、元F1レーサー片山右京、落語家立川志らく。所在地は町田市図師町11の2375。新井勇治校長。

◆Vへの足跡◆

3回戦7-4杉並

4回戦8-3豊多摩

5回戦13-2駒大高

準々決勝8-6片倉

準決勝9-6東海大菅生

決勝5-3日大鶴ケ丘