最後まで感謝の気持ちを忘れなかった。最後の打者を内野ゴロに打ち取ると、日南学園(宮崎)辰己に笑みが浮かんだ。「バックがしっかり守ってくれた」。公式戦自身初の完封だったが、その喜びより、仲間への気持ちが先に出た。打たせて取る投球で「今までやってきた中で一番いいピッチングができた」。許した安打は4本のみ。背番号1にふさわしい投球だった。

 「とにかくチームが勝てればそれでいい」。そう強く思うきっかけがあった。今年5月下旬、夏の前哨戦となる大会のメンバー発表が行われ、エース番号が与えられた。その直後、チームメートから「お前は1番にふさわしくない。お前がおらんでも勝てる」と冷たく言い放たれた。理由があった。辰己は、春までの自身や周囲に対する考えを「練習の準備はメンバー外がやって当たり前。エース番号をもらって当たり前。自分本位になっていた」と振り返る。だが、仲間の本音を聞いたとき、周囲の信頼を得られていなかったことに気付いた。

 辰己は渡されたユニホームを金川豪一郎監督(41)に返そうとした。しかし「周りがどう思っているか分かっているだろう。頑張ってやって信用されるか、(そのままユニホームを)返すかどっちかだ」と諭され、心を改める決意をした。「練習の準備も積極的に行くようにしました。バックを信じての投球に変わった」。今ではチームメートも「あいつじゃなきゃだめ」と言う。

 この日、奪った三振は1つ。「自分ひとりではこんなピッチングできていない」。打たせて取る。バックは懸命に守る。絆の完封勝利だった。【鶴屋健太】

 ◆辰己凌晟(たつみ・りょうせい)2001年(平13)2月1日、奈良県生まれ。小2で軟式「橿原カープ」で野球を始め畝傍中では硬式「奈良葛城ボーイズ/JFK」に所属。日南学園では昨年夏からエース。いとこの辰己大輝は龍谷大平安の控え内野手として14年春夏連続甲子園に出場し春は優勝を経験した。家族は両親と弟2人。176センチ、73キロ、右投げ左打ち。