四国に野球で「まちおこし」をしている自治体があった。徳島県阿南市は市役所に「野球のまち推進課」がある。裾野を広げるため、野球を使った観光客誘致、合宿の受け入れから、モンゴルとの野球交流まで。そんな阿南市にある富岡西が、3月23日開幕のセンバツで甲子園初出場の朗報を待っている。【取材・構成=柏原誠】

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阿南市役所の2階に上がるとすぐ、野球グッズが数多く展示された窓口が目に入る。10年に全国で初めて設置された「野球のまち推進課」だ。同課の初代課長を務めた田上重之さん(66)が「元々、野球が盛ん。地域を巻き込んで、市民が支える野球のまちをキャッチフレーズにしています」と教えてくれた。

構想の中心地になる「アグリあなんスタジアム」は07年に完成。打撃マシン6台を擁した広い室内練習場も備える。温暖な気候、甲子園まで車で約2時間の立地をPRし、11年から北信越のセンバツ代表校の直前合宿を受け入れ始めた。

15年春には、敦賀気比(福井)が北陸3県で初めて甲子園を制覇。田上さんは「雪国の学校の優勝を少しでもアシストできたのはうれしかった」と振り返る。今後は各国代表チームの合宿誘致にも力を入れるという。

草野球をセットにした観光プランも人気。本格的な球場でプレーしてもらい、夜には阿波おどりや地元の料理で歓待。同市には還暦野球チームが10団体と多く、草野球も盛ん。彼らがホストとして試合相手を務めることも。少年野球大会も積極的に開催する。招致したチームは、ボランティアが看板作り、お茶くみ、用具運搬などでもてなす。宿泊施設も増やしてきた。

経済効果を度外視した活動もある。驚きはモンゴルとの国際交流。現地の野球少年の求めに応じて、91年に野球道具を送ったことがきっかけ。96年には寄付を募り、ウランバートルに国立野球場まで建設した。モンゴル野球協会会長は横綱白鵬。13年に同球場で開いた両国による野球教室では、阿南市長の投げた球を左打席の白鵬会長が右翼越えに特大アーチ。約20人の阿南市訪問団を喜ばせた。野球振興は簡単ではないが、継続して支えてきた。

阿南市の高校が甲子園に出場したのは96年夏の新野(あらたの=現阿南光)が最後。地域から応援バス75台、約6000人が甲子園に向かった。昨秋の四国大会で2勝し、ベスト4に進んだ富岡西。21世紀枠の四国推薦校にも選ばれ、期待は高まる。市全体が、センバツ出場校決定日である25日の朗報を待ちわびている。

 

◆徳島県阿南市 四国最東端に位置し、徳島市から南に約20キロ。人口7万4559人(17年現在)。四国で最も早く太陽が昇ることで知られる。四国88カ所参りの続きとして89(やきゅう)番目の「野球寺」も設置。必勝祈願に訪れる人もいる。06年に那賀川町、羽ノ浦町を編入して現在の市域に。岩浅嘉仁市長。元巨人、水野雄仁氏の出身地でもある。