時代の節目に悲願を果たす。第91回選抜高校野球大会(23日開幕、甲子園)の組み合わせ抽選会が15日、大阪市内で行われた。3年ぶり10度目出場の八戸学院光星(青森)は、第4日の第2試合で広陵(広島)と対戦する。主将の武岡龍世内野手(3年)は、東北勢初の優勝旗を持ち帰るだけでなく、被災地に披露行脚したい思いも明かした。

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徳島から青森に野球留学した武岡が「東北人」代表として戦う強い気持ちを言葉に乗せた。

武岡 子どもからお年寄りまで、今でも震災前の生活に戻れていない人がたくさんいる。自分たちと同年代の人も、命を落としてやりたかった夢すら見られなくなった人もいることも感じることができた。その人たちのためにも青森、東北、被災地に優勝を届けたい。先を見てはいけないが、本気で頂点に立つ思いでやってきた。優勝旗を東北全体の人に見てもらえたら、喜んでもらえると思う。平成最後の大会でもあるし、そのタイミングでかなえられたらうれしい。

巨人坂本、11年夏から3季連続準優勝したロッテ田村、阪神北條。武岡もプロ入りした偉大な先輩たちに続こうと、背中を追った。「光星=関西出身」のイメージから、地元の野球ファンから「大阪第3代表だ」「光星じゃ心底応援できない」という声も耳に届くことすらあった。今大会もレギュラー9人中、青森県出身者は1人しかいない。

仲井宗基監督(48)は聖地での結果を求め、背中を押した。野球だけでなく、人としてどう成長できるかの大事さを問い続けた。

実感が薄かった東日本大震災後の現状も、東北沿岸部への練習試合の際にはバスで迂回し、復興工事などを目の当たりにした。東北出身者のチームメートや学校の友人の話も耳を傾けた。武岡は言った。「ニュースの記憶は鮮明に残っています。でも正直、震災への思いはなかったと思う。自分らは関西出身が多いですけれど、2年間でみんなの気持ちも変わった」。

正月の始動は、八戸市内で津波被害を受けた三陸復興国立公園の種差海岸ランニングが恒例。地域の方に励まされて走り抜く。同監督から「東北で野球をして、東北代表として甲子園に行くことは被災地の思いを背負って戦うこと」と教えられてきた。目や耳で感じたこと…出身地は関係ない。

大阪入りへの学校出発も3月11日にこだわった。土のグラウンドで練習できないハンディは当然あるが、技術よりも強い心を重視した。抽選会後に行った関西創価(大阪)との練習試合では9-3と、今季5戦目でようやく初勝利。武岡は「初戦の広陵は、投手がいい評判。打ち崩して、勢いに乗りたい」。真の東北代表と認めてもらうためにも-。平成最後の重い優勝旗を、東北の地に初めて届ける。【鎌田直秀】

○…メンバー入りした大野僚磨内野手(3年)は被災した1人だ。青森県南部の海岸沿いに位置する階上町出身。自宅に津波被害はなかったが停電は続いた。小学校から帰宅後、仕事中の両親や高校生の兄とは連絡すら取れず、真っ暗な中で1人寂しい思いも経験した。「まだ復興作業中の人もたくさんいる。同級生には被害はすごかった人もいるし、僕たちが優勝することで東北の人たちが少しでも元気になっていただけたらうれしい」と意気込んだ。

◆優勝がない東北勢 東北6県は甲子園で優勝がない。平成以降、延べ9校が優勝に王手をかけたが、すべて準優勝だった。八戸学院光星は11年夏から12年夏まで3季連続準V。優勝未経験で準V3度は仙台育英、熊本工に並び全国最多。

○…初戦の相手も決まり、八戸学院光星ナインのギアが上がった。抽選会後、関西創価(大阪)との練習試合では、9-3と今季初勝利。11日の大阪入り以降、無安打だった「1番二塁」伊藤大将(3年)が初回に先制のホームを踏むと、2回には特大の左越え2ランを放った。伊藤は「たまたまですけれどホッとした。広陵は強いけれどやるしかない。目標は日本一なので自分たちに隙がないように準備したい」と悲願の東北初優勝を誓った。

代打で登場した中沢英明捕手(2年)もバックスクリーン弾で続いた。「3番遊撃」武岡龍世主将(3年)も、8回に今季初安打初打点を記録し、安堵(あんど)の表情。「広陵が強いのは分かっている。抽選を引いた時はうわあって感じでしたけれど、投手が良いという評判なので、打てば注目されると思う」。自校が春夏3度経験した、過去最高準優勝では満足できない。