武蔵越生・高橋仁(3年)は必死に声をからした。「応援団長タイプではないんですけれど」と照れながら、鉢巻きをつけ、満員の応援席を動き回った。「メンバー入りは無理でも、勝つために自分ができることを」と手を挙げた。

貴重な2番手捕手としてチームを支える日常が、4月下旬に暗転した。私生活で右足甲付近を骨折。リハビリに励んだが、夏に間に合うかの確証はなかった。7月9日、泉名智紀監督(49)に呼ばれ「ごめん」と正式にメンバー外を告げられた。その席で「応援団長をやらせてください」と志願した。

「彼のおかげで3年生がまとまったのもある。本当はベンチに入れたかった」と泉名監督にも苦渋の選択だった。「それでも、一番つらい時に応援団長をやらせてくれって。普通の高校生ではなかなか言えないですよね」と、その立派な姿に鉢巻きを託した。就任3年目、部員は89人。激戦の埼玉でまだ目立つ成果はないが「人にエネルギーを与える子がいれば、チームは強くなる」と信じている。

あと1本が出ずに、0-1で敗れた。泣きながらベンチから出てくる仲間に「よく頑張った」「泣くな、笑おう」と肩をたたき続けた。そうされた仲間は、もっと泣く。こらえていた高橋も、とうとう限界に。ひざに手をつき、小雨とともに地面をぬらした。【金子真仁】