5年ぶり3度目出場の旭川明成が釧路工に4-3で逆転勝ちし、創部21年目で北北海道大会初勝利を挙げた。同点の7回1死二、三塁、振り逃げを狙う9番伊藤嶺投手(3年)を刺そうと相手捕手が一塁に送球した際に、三塁走者の渡辺蓮一塁手(3年)が本塁に走り決勝のホームを踏んだ。

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旭川明成が渡辺の激走で北大会初白星をもぎ取った。2-3から同点に追いついた後の7回1死二、三塁。9番伊藤の打席だった。三振に倒れたが、振り逃げ狙いで走ると相手捕手が一塁に送球。その瞬間に三走の渡辺は「行ける」。迷わずスタートを切り、チーム屈指の快足を飛ばして本塁にヘッドスライディング。勝ち越しの生還を果たして「うれしくて頭が真っ白」と無邪気に喜んだ。

チームで徹底した。普段からアウト覚悟の積極的な走塁を心がけている。さらに試合前、河井貴智監督(48)からは「守備に隙があったら、次の塁を貪欲に狙おう」と強調された。渡辺のサプライズプレーに指揮官は「ほとんど暴走ですが、よく走りました」と苦笑いでほめた。

ワイルドスピードで駆け抜けた。小学校までは雨竜町で暮らし「家の周りは何もなかった」。広大な空き地で毎日運動会のように走り回り、木登り遊びで体力がついた。ヘビにも出くわしたが、恐れずに追いかけた。接戦の緊迫した場面にも「野性の勘。何も考えずに無我夢中だった。感覚ですね」と振り返った。

チームでの特訓も生きた。昨秋、ボール回しを失敗すると、4個の塁すべてでヘッドスライディングをしてダイヤモンドを1周する練習に取り組んだ。ユニホームがすり切れるほど走り、仲間の絆も生まれた。渡辺は「あのヘッドスライディングが(この試合に)つながりました」と胸を張った。

家族のためにも負けられない。今年4月、母仁美さん(55)が後腹膜がんのため他界した。札幌から応援に駆け付けた姉千咲さん(24)は「家では手を合わせて甲子園に行くと言ってました。頑張って欲しい」。武修館との準々決勝に向け、渡辺は「向こうは力があるのでこちらも負けたくない」と声を弾ませる。「歴史を変える」がチームの合言葉。1勝では満足しない。【西塚祐司】