【機張(キジャン・韓国)5日】日本のエースだ! U18ワールドカップ(W杯)のスーパーラウンドが開幕し、星稜・奥川恭伸投手(3年)が復活を告げた。

甲子園準優勝後の疲労で投球を控えてきたが、カナダ戦で先発し、大会初登板。7回2安打1失点、打者23人から18奪三振の圧倒的な投球を世界に披露し、勝利に導いた。勝ち進めば中2日で迎える8日の決勝戦も、先発を任される可能性が高くなった。

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機張の蒸し暑い夜。2週間ぶりの登板、初めてのマウンド。心身の限界が近づいていた。「最後の2回はしんどかった」。ここで最高の精度を見せた。

7回2死。球数100球。105球以上投げると規定で中4日空けなければならない。4球がリミットと「知っていた」。右の5番バレロを2球で追い込む。3球目にスライダーを外角低めに完璧に投げ、空振り三振。永田監督に途中で託された「7回」を投げきった上で、決勝戦の登板権も手にした。6カ国トップのチーム打率3割2厘を誇るカナダから18奪三振。「2ストライクになったら狙っていた」と、強打者たちを子ども扱いした。

4回、浮いた直球を先制ソロとされたが、精密機械が乱れたのはそれだけ。最速152キロの速球に、スライダー。特にスライダーは18三振のうち14回も決め球になった。投げミスはほぼなかったが「置きにいったスライダーなのでダメです。全然満足していない。相手のレベルが上がったらきつい」。ブランクで感覚を取り戻せず、腕の振りを緩めていた。キレを捨てての18奪三振。衝撃だ。

「朗希と奥川が戻るまで頑張ろう」がチームの合言葉だった。甲子園の影響で心身が疲弊。合宿初日、関係者に「かなり疲れています」と見通しの悪さを語っていた。大会中に投げられない可能性すらあった。だが、自分や佐々木を抜きで奮闘する仲間の姿に、戦闘意欲を取り戻していった。

ネット裏では日米のスカウトが注視した。星稜の先輩、ソフトバンク山本スカウトは「まだ体が重そうだが、それでも150キロを平均して投げられるのが」と感嘆した。ブルワーズのスカウトで元広島バリントン氏は「米球界関係者なら知っている」と佐々木とともに注目投手だと証言した。昨秋のアジア大会は中継ぎ登板だけ。ついに世界舞台で真の姿を披露した。

石川・宇ノ気中で打者に専念する考えもあったほど打撃が好きだった。投手に専念したのは「制球がすごく良かったから」。投球の楽しさを知り研究心が高まった。成長を支えた探求心が国際舞台でも生きた。

決勝に進めば、先発に立つ可能性が高い。「もっと相手は強くなる。世界一になった時に喜べるようにしたい」。心の底から笑えた日、侍ジャパンは世界の頂に立っている。【柏原誠】

◆今大会の球数制限 1試合49球以下は連投可能。50~104球は中1日、限度の105球に達した場合(打席中に達した場合は、その打者との対戦終了まで投球可能)、中4日の間隔を空けなければならない。

◆スーパーラウンド 1次ラウンドA、B各組を勝ち上がった6チームで争う。1次ラウンド同組の対戦成績を持ち越し、日本は1勝1敗からスタート。別組から進出した3チームと対戦し、計5試合分の成績で順位を決める。上位2チームが決勝へ、3、4位は3位決定戦に進む。

◆奥川恭伸(おくがわ・やすのぶ)2001年(平13)4月16日、石川県生まれ。宇ノ気中3年時に全国中学校軟式大会優勝。星稜では1年春からベンチ入り。2年春から4季連続で甲子園に出場し、今夏は準優勝。3回戦の智弁和歌山戦では、延長参考記録ながら1試合歴代2位の23三振を奪った。183センチ、84キロ。右投げ右打ち。