第103回全国高校野球選手権大会(甲子園)が9日に開幕する。この夏を待ち望んでいたのは、高校球児だけではない。「帰ってきた夏」と題し、アルプスに2年ぶりに戻ってくる吹奏楽部やチアリーディング部、応援団の部員を紹介する。

上編は作新学院(栃木)の吹奏楽部。全日本吹奏楽コンクールにも出場経験があり、40曲以上のレパートリーが持ち味だ。聖地に、心おどるブラスバンドの演奏が響き渡る。

   ◇  ◇  ◇  

夏空に、ブラスバンドの音が帰ってくる。野球応援の責任者を務める吹奏楽部・山本夏穂(なつほ)さん(3年)は「広い空間で演奏できるのは、とてもいい経験。うれしさや、感謝の気持ちを表現したいです」と、試合を待ち望む。

同校のアルプスといえば、おそろいの黄色いポロシャツと迫力のある演奏で知られる。「甲子園で演奏したい」と入部してくる生徒も多い。高橋みのり部長(3年)には、忘れられない景色がある。1年生の頃、大型のチューバを担当し、アルプス最上段から演奏した。「球場が一望できて、みんなの盛り上がりや熱気が感じられました」。忘れられない格別の景色を、また味わえる。

伝統と革新が、あの音を作り上げている。「OH作新(アフリカンシンフォニー)」など耳なじみのある曲を含め、レパートリーは40曲以上。全員が暗譜している。毎年、新曲にも挑戦する。

今年は7月に野球部と応援団、チアリーディング部をまじえて相談。野球部からのリクエストで18年甲子園の準V校、金足農が演奏した巨人のチャンステーマ「Gフレア」を採用した。さらに吹奏楽部員のアイデアで、YouTubeで1億回以上再生されたAdoの「うっせぇわ」も取り入れた。部員でアレンジを加え、しっかり応援仕様に。従来のスタイルにとらわれない新曲は、県大会で話題となった。

普段はコントラバスを担当する水村心響(しおん)さん(3年)が、野球応援では全体をまとめる指揮者を務める。「雰囲気を感じてテンポの速い曲がいいかな、など考えています。甲子園で応援できるのは、楽しみです」と心待ちにする。

野球部が10連覇を達成した7月25日の県大会決勝。機械の不具合で、校歌が流れなかった。チーフ顧問の三橋英之先生(60)が機転を利かせ、生演奏を指示。球場では「作新だからできた」との声が上がり、伝統校の存在感を示した。

吹奏楽部にとっても、2年ぶりの聖地。9日には全国大会につながる栃木県吹奏楽コンクールが控えているが、合間を縫って甲子園に向けた練習を重ねてきた。昨年の部長、西山咲さん(19)は「甲子園に行きたい気持ちはあって、不完全燃焼で終わってしまった。今の部員が私たちの思いを背負ってくれているのは伝わってくるけど、悔いのないように演奏してくれたらそれがうれしい」とエールを送る。甲子園は原則無観客となるが、音に思いを乗せ、テレビを通じて全国に届ける。【保坂恭子】

○…作新学院は大会前の新型コロナウイルスのPCR検査で、部員2人が陽性と判定された。この検査前にも部員1人が陽性と判定されたが、大会中の宿舎に入る予定の他の30人の部員は陰性を確認。保健所からも濃厚接触者はいないと判断された。指導者、部員に対しては、大会第6日の初戦、高松商戦(香川)までに、計4度のPCR検査を行う予定になっている。

【日刊スポーツ野球チャンネル】作新学院吹奏楽部の演奏動画はこちら>>