<高校野球奈良大会:生駒0-21天理>◇28日◇決勝◇奈良・佐藤薬品スタジアム

球場を去る生駒のメンバーを、観客が花道をつくって出迎えた。大きな拍手を浴びる。

「最後まで笑顔でいよう」-。誓ったはずの表情が崩れる。保護者と対面すると泣き崩れた。歴史に残る公立高校の快進撃は、新型コロナウイルスに翻弄(ほんろう)され、初の甲子園まであと1勝で途絶えた。だが、0-21でも最後まで全力で戦った勇姿は、多くの人の記憶に刻まれた。

昨夏の甲子園で準優勝した智弁学園を破った26日の準決勝の夜から、前日27日にかけて発熱などを訴える体調不良者が続出した。主力選手12人。陽性者もいたが、北野定雄監督(63)は「何人かは早くに分かったが、全員がコロナかどうかは分からない」と混乱状態に陥った。決勝で初めてベンチ入りした選手は11人。先発した1年生の草野純投手は大会初出場だった。

「3年生はもういない。2年生も熱を出している。『草野、投げられるのはお前しかいない』。全てを受け入れた上で失礼のない試合をしよう」

この日の朝、そう伝えた同監督は「外野手以外は全員ポジションが違う。できることは精いっぱいやりました。私は満足しています」。そう言葉を絞り出すと、涙があふれた。

体調不良の選手は球場に来ることさえできない。熊田颯馬外野手(3年)らには、謝罪のメッセージが届いたという。熊田は「気にするな!」と返信した。

「ここまで来ることができたのは、みんなのおかげ。ありがとうと伝えたい」

21点差を追う9回1死、右中間を破る三塁打を放った野村拓内野手(3年)は「智弁に勝ってここまで来たことは自信になる」と胸を張った。50年ぶりの奈良4強から初の決勝進出。確かな足跡を残し、生駒の夏が終わった。【益子浩一】