星稜(石川)が被災した地元に白星を届けた。第96回選抜高校野球大会が18日に甲子園で開幕。21世紀枠の田辺(和歌山)との1回戦で、同点の9回に代打で出場した背番号20の東汰生(ひがし・たいせい)外野手(3年)が右前2点適時打を放った。公式戦初打席初ヒットが値千金の決勝打。石川県出身で能登半島地震により被災を経験した伏兵が、初めての大舞台で光り輝いた。

ガラガラ声の東が、一塁ベース上で雄たけびを上げた。2-2の同点の9回、1死一、二塁から代打で登場。暴投で二、三塁となった5球目だ。「ショートからボールが出てくるようなイメージというのをみんなで共有していた」。田辺のエース寺西の内角直球をコンパクトスイングで右前へ。詰まりながらも右翼線に落とし、2人の走者が生還した。背番号20の伏兵が、一振りで勝利を呼び込んだ。

「打球はよくなかったんですけど、チームの勝利につながってくれたことが一番。本当にうれしいです」

公式戦初出場、初打席、初ヒットが値千金のタイムリーとなった。昨秋の県大会、北陸地区大会、優勝した明治神宮大会はベンチ外。「悔しかった」。調子の波をなくすべく、オフ期間は1日で最大約1000スイング振り込んだ。山下智将監督(42)は「彼の成長と頑張りがすごく見えて、この冬もすごく伸びてきてくれた選手」と説明し、「いい場面で打ってくれた」とたたえた。出番を待つ中、ベンチから「野球できることを楽しもうよ」などと声をからすまで懸命にチームを鼓舞した。

東は石川・金沢市から北に位置する河北郡津幡町が地元で、元日には自らも被災した。「不安と恐怖がありました」。自宅近くのジムでのトレーニング中に、地震が起きた。その後津波警報が発生し、家族で近くの小学校に夜まで避難した。自宅に大きな被害はなかったが、断水して「お風呂に入れなかったり、ご飯が食べられなかった」。2、3日後には復旧したという。

最後まで諦めないプレーをみせ、被災に苦しむ地元石川に勇気と感動を届けた。東は「本当に大変な中なんですけど、自分たちが1球1球、1戦1戦頑張る姿を1人でも多くの方に届けられたら」と決意をにじませた。八戸学院光星との2回戦に向けて「楽しみながら野球をすることを忘れずに頑張りたい」。地元への思いを胸に、がむしゃらなプレーを貫く。【古財稜明】

▽星稜・佐宗(先発で6回3安打2失点と力投)「(点数は)50点以下です。今日の投球はボール先行でリズムも悪かった。それが攻撃にもつながったと思う」

▽星稜・山下智茂名誉監督(星稜の2回戦進出に)「地震の影響でしばらく練習ができない中、自主練習を続けた部員の姿を見て感動しました。山下智将監督も苦しみながら甲子園初勝利。震災で自校グラウンドがひび割れ、グラウンド整備をしながらの指導でしたが、これでホッとしているのではないでしょうか」