<センバツ高校野球:常総学院1-0日本航空石川>◇25日◇1回戦◇甲子園

センバツが100年を迎えた。敗れて甲子園を後にする敗者には、今夏の甲子園へとつながっていくドラマがある。「涙は夏のため~新しい夢のため~」と題し、さまざまな角度から敗れたチームの物語を紡ぐ。

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日本航空石川の福森誠也投手(3年)が0-1の8回、2死満塁でマウンドへ走った。「一番元気を出して前線で声を出していたので」と、中村監督は残り8人の控え選手から福森を伝令役に選んだ。硬い表情のナイン。「雰囲気を変えよう」と飛び出した。「見よう!」と内野陣に声をかけた。帽子のツバ裏の「感謝笑顔恩返し」をもう一度伝えたかった。7つの7文字がマウンド上で円を描いた。ピンチを切り抜けた。

能登半島地震で避難所生活をした。祖母の早瀬舞子さん(66)の家にいた。地震発生直後に祖母を背負って高台に逃げた。避難先で1世帯に1枚配られたせんべいを10人で分けた。空は火事で赤く染まる。1部屋に30人、ブルーシートの上で眠れぬ夜を過ごした。

野球の日々へ背中を押してくれたのは祖母だった。「あのちっちゃな体の子が。まさか私をおんぶするっちゅう。本当にあの子に助けられたようなもんやね」。大きくなった孫の背中に目を細めた。能登の避難所からつえをつき、甲子園に勇姿を見ようと駆けつけた。試合は負けた。孫は壁に手を付き、大きな背中を小さくした。「元旦にああいうことがあって(それでも)野球について背中を押してくれたので、まず感謝の気持ちを伝えたいです」。ばあちゃん、ありがとう。背中を震わせた。【佐瀬百合子】

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