<高校野球大阪大会:清教学園12-0泉尾工>◇9日◇1回戦

 大阪187校の夏が、史上初の記録で幕を開けた。開幕カードは清教学園が泉尾工に12-0と圧勝。伊東拓内野手(3年)が同大会開幕戦では史上初のプレーボール本塁打(ランニング)を放ち、守っても無安打無得点リレーで相手を圧倒した。強豪対決は、大阪桐蔭の「ダルビッシュ2世」藤浪晋太郎(2年)が3安打14奪三振で、関大北陽を4-0と完封した。東日本大震災の被災地、宮城など各地で大会が始まり、沖縄では甲子園春夏連覇中の興南など8強が決まった。

 戦国大阪が珍記録で幕開けした。プレーボールの直後、いきなりドラマチックなシーンが飛び出した。清教学園・伊東が、初球をコンパクトに振り抜く。打球はやや前進守備だった泉尾工の中堅頭上を大きく越えた。京セラドーム大阪の外野フェンス付近までボールが転々とする間に、50メートル走6秒2の俊足を飛ばして一気にホームインした。

 「1番を言われた時、初球から行こうと決めていた。抜けるとは思わなかった。びっくりした。ホームランは人生初めてです」と伊東ははにかんだ。大阪府高野連によると開幕戦のプレーボール本塁打は史上初。まさに歴史的な1発でチームは勢いに乗った。2回には3番大西岳外野手(3年)が左中間を鋭く破るランニング満塁弾と異例ずくめの6回コールド勝ちだった。

 指揮を執る小島哲部長(50)も「珍しいケースで先取点を取れた」と目を丸くしたが、スタンドでは目頭を熱くする人がいた。伊東の父伸輔さん(49)だ。80年、北陽が春夏と甲子園に連続出場した当時のキャプテン。伊東と同じ小柄な内野手だった。もっとも、伊東は父から野球を薦められたことはないが、自然と小学3年でボールを握った。バットスイングを見た父からは「波打っているから」とすぐに左打ちに矯正されたが、それ以外の指導は記憶にないという。父も「自分と比較されるとかわいそう」と距離を置いてきた。

 父が輝いた甲子園を目指す最後の夏。「父よりうまいところを見せたい。超えてみたい」。秘めた思いを胸に臨んだ第1打席だった。「こみ上げてくるものがありました」と声を震わせた父は、高校時代ランニング本塁打を打ったことがない。「負けました」とうれしそうに笑った。「1つでも上に行きたい」。伊東の輝く夏が始まった。