<全国高校野球選手権:習志野6-1静岡>◇7日◇1回戦

 静高の短い夏が幕を閉じた。8年ぶり22度目出場の静岡(静岡)は、春の関東王者・習志野(千葉)に敗れた。先発したエース原崎匠人投手(3年)が辛抱強く投げながら、機動力野球のプレッシャーをじりじりと受け、疲れの見えた終盤につかまった。打線も相手投手の速球に苦しみ、最後まで攻略できなかった。県勢にとって、昨年に続いて2年連続初戦敗退となった。

 マウンド越しに見えた外野が、いつにも増して遠く感じた。相手は春の関東王者・習志野。やはり強かった。1-3の2死満塁で迎えた8回表、原崎は直球を右中間に運ばれた。走者一掃の三塁打を浴びベースカバーに入りながら見つめた。再びマウンドに上がることなく、代わって投げた岩崎翔(3年)にはベンチで「ごめん」と伝えた。代わった岩崎は自己最速の142キロをマーク。流れを引き寄せようとしたが、かなわなかった。

 じりじりとプレッシャーを受けた。2回、二塁打、バント、スクイズと絵に描いたような攻撃で、わずか4球で1点を奪われた。機動力を交えながら要所で仕掛けてきた。4回、一塁けん制をボークと見なされた。審判の判定とはいえ、得意技の1つを封じられた状況でも防戦した。6回と8回には素早いバント処理で走者を進めなかった。「ボークをとられてもけん制しないと走られる」とボークの判定基準を審判に確かめ、何度もけん制した。が、7回には2死満塁から本盗を許した。「走者も打者も揺さぶってきて、自分の投球ができなくなってしまった。相手の方が一枚上手だった」と悔しがった。

 制球や守備を含めた総合力で勝負する原崎は、速球派の岩崎と常に競い合ってきた。2年の春、突如肝炎を患い練習から遠ざかった。出遅れた秋の新チームでも「背番号1」を譲った。「自分には速い球は投げられない。制球力と変化球で勝負するしかない」。母寿江さん(51)に頼み込み「残さず食べる」という約束でおにぎり5つを毎日学校に持参。休み時間ごとに1つずつ食べて、体重は入学時より約20キロ増。安定感も増した。一方で岩崎は1月に右肘を手術。春には立場が入れ替わった。

 エースナンバーの重みとやりがいは戦うたびに感じていた。原崎はほぼ1人で投げ抜き勝ち進んだ県大会決勝磐田東戦直前、重圧のあまり嘔吐(おうと)していた。それでも、9回1失点完投で甲子園へと導いた。「岩崎がいるから初回からとばせる。今の自分がいるのは岩崎のおかげ」というライバルを、間近に見ながら甲子園で復活の日を迎えた岩崎は「自分が1番をつけた秋と比べて、夏は重みが違う。自分もその重み感じたかったけど、原崎には『お疲れさま』と言いたい」。ライバルがいたから、甲子園がある。短い夏にも、長くて熱いドラマが詰まっていた。【栗田成芳】