「危険なスイング」が今はひとつの焦点になっている。ファームの試合でも、現実に「警告」となる場面があった。14日の日本ハム-楽天(鎌ケ谷)を現地取材し、その場面を確認していた田村藤夫氏(66)は、今回のNPBの判断について思うこともあった。
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3回表、楽天田中の打球はファーストフライ。低めの変化球に泳ぎながらバットを出しての小飛球だった。左打席に入っていた田中の手からバットは離れ、一塁と二塁の中間方向へコロコロとグラウンドを転がった。すぐに審判から「警告」が場内にアナウンスされた。
こういう運用になるんだな、との実感があった。審判は12日の実行委員会の決定を受けて、その流れにそった運用をしている。審判の判断には何も違和感は覚えなかった。一方で、これまでプロ野球を経験してきた者として、あの場面で打者が「警告」となることには、多少の驚きがあった。
今回のNPBの動きは、危険防止を主眼に置いている。そこは私も関心をもって推移を見守ってきた。バットが打者の手から離れ、それが球審の頭部を直撃する悲劇に端を発し、迅速ともいえる動きで「危険なスイング」という議論となり、今回の運用に至ったと理解している。
現状を良くしよう、球審、選手、ボールボーイ、カメラマン席、スタンドなど、あらゆる関係者の安全を守るための動きだ。再発防止のため、動きが素早かったことも印象的だった。なかなか腰が重いものだと感じてきたNPBだが、こうした安全面については、危機管理の意識は強いように思う。
冷静に、そして速やかに動いたことを、私も一歩退いたところから見ているし、冷静に受け止めようと感じる。同時に、試合の中でさまざまな場面に遭遇し、その中で今回の運用がどのような効果をもたらすのか、そこもしっかり見たい。
楽天田中がバットを離して、フェアグラウンドを転がったところで、運用通りの「警告」になったのだが、本来の安全面の確保という観点から見れば、危険ではなかった。バットが一塁手や二塁手を襲うようなこともなく、グラウンドをコロコロと転がったのが事実だった。
そして、2度目の「警告」で退場になるという現実を踏まえると、田中は3回表で「警告」1回目を受けて残りの打席に臨まなければならない。バットを手から離さなければいい、そう言われる方もいるかもしれないが、ほぼ全打者はそれを前提にバットを振っている。
それでも、スイングの中で両手から離れてしまうこともある。私の現役時代は、お世辞にも強打者とはほど遠かった。ゆえに、打者を代表してものを言う立場にないことは重々承知している。その中で、率直な思いを言わせてもらえば、タイミングがズレて思わずバットが出た時、あるいは狙い球がはずれて慌てて何とか当てようと力んでスイングした時、その他もろもろのケースにおいて、絶対にバットが手から離れないとは言い切れない。
だから、同じ悲劇を繰り返さないために、こうしたやや強めの運用になるのだろうが、これがもっとも適した解答でもないように感じる。今は新しい概念を導入した過渡期。より厳格に運用することで、バットを離さないように意識付けを徹底する狙いもあるとは感じる。それを踏まえても、言ってしまえば、すべては状況判断に尽きるのではないか。
運用がはじまったのだから、個々のケースについてしっかりフィードバックして、さらに安全面の確保や、楽しい野球観戦を実現するために、工夫は続けられないければならないと感じる。
私は21年の現役生活で、捕手としてバットが頭部に当たったことは一度もなかった。あったのは、スイングしたあとのフォロースルーでミットに当たったのが1度あった。
当時、阪急(現オリックス)のブーマー、近鉄(現オリックス)のブライアント、西武のデストラーデ、ロッテのディアス、ダイエー(現ソフトバンク)のバナザードなど、強烈なスイングをする外国人選手はたくさんいた。
だが、私は幸運にもバットの直撃を受けたことはなかった。必死に思い返してみたが、本能的にホームベース後ろの位置で、当たらないところにポジションを変えていたからだと思う。極端に言えば、バッターボックスのもっとも後ろに構える外国人選手が打席に入った時、それまでよりも、およそ50センチ近くは下がって構えていた。
となると、必然的に審判も私のポジションに伴って後ろに下がっていた。もしかすると、それも不運なバット直撃を未然に防いだことの遠因だったかも、しれない。それは振り返って結果論で考えるとそう思えるだけで、因果関係ははっきりしない。
今は外国人選手のスイングはどんどん速くなっている印象がある。スイングスピードが上がるにつれ、意図せずにバットが両手から離れる確率も上がってしまう。確かにあやうい状況になっている。
こうしたアクシデントが起きる前に、審判も頭部を守るヘルメットを着用していたら、と思わずにいられない。
捕手も守る、そして同時に球審も守る。野球においてもっとも危険と背中合わせのスポットが、ホームベース付近といえる。あの硬球を目がけて、木製バットを、屈強な打者がフルスイングする。ファウルボールも目が離せないばかりか、先端が尖った折れたバットも恐ろしい、ましてや手から離れたバットは高速で動く凶器となる。
思えば、捕手は低いポジションにあるが、球審はもろに硬球やバットが届く範囲にいたことになる。これまで、こうした悲劇がなかったことは、本当に幸運だったということなのだろう。
今回の件を発端に、プロ野球は球審、審判などの安全面にもこれまで以上に取り組むことになった。その中で「危険なスイング」として「警告」「退場」という概念が持ち込まれた。この改革によって、どんな波及効果が起こるのか、私はメーンフィールドのファームの試合の中で、これからも見て感じたことを率直にお伝えしたい。
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最後に、頭部直撃を受けた球審の方の回復を心から祈る。(日刊スポーツ評論家)
◆プロ野球12球団と日本野球機構(NPB)は打者の「危険スイング」に対して警告や退場処分を科す新たな運用を承認。5月12日から適用された。
対象となるのは、打者がスイング時に最後までバットを保持できず、途中で投げ出してしまったケース。スイング途中の「すっぽ抜け」も含まれる。バットがグラウンド上の選手や審判員、ボールボーイ、ダッグアウト、カメラマン席、スタンド方向へ飛ぶなど、他者に危険を及ぼす行為を「危険スイング」と定義。
罰則は3段階。危険スイングをしても他者に接触せず、グラウンド上を転がっただけの場合は「警告」。同一試合で同一打者が2度目の危険スイングを行った場合は「退場」となる。さらに、バット全体が他者へ向かい、直接身体に当たった場合や、ダッグアウト、カメラマン席、スタンドなどボールデッド区域へ飛び込んだ場合は、1度目でも「即退場」。
また、打球とともに飛んだバットが守備を妨害した場合は、公認野球規則5・09(a)(8)を適用して打者アウトとし、警告も併せて宣告。さらに野手へ直接当たった場合は即退場となる。
一方、バント時にバットを放り投げるケースや、フォロースルーで捕手や球審に接触するケースについては今回は対象外。ただ、フォロースルーが捕手に接触するケースについては実行委員会でも「危険ではないか」との意見も出ており、今後も継続審議。
異例の約1カ月でのスピード承認となった。野球規則の改正ではなく、12球団とNPB間で定めるアグリーメント(申し合わせ事項)の内規として運用される。





