<全国高校野球選手権:作新学院11-1福井商>◇8日◇1回戦

 作新学院(栃木)が、元巨人の江川卓氏(56=野球評論家)を擁した73年以来、38年ぶりの夏の甲子園白星を挙げた。今大会からエースに昇格した大谷樹弘(しげひろ)投手(2年)が4安打1失点完投。かつての江川と同じ背番号1でお立ち台に上がり「江川さんは目標です」と高らかに宣言した。打撃では1回から一挙6点を奪うなど、14安打11点の猛攻で福井商(福井)を圧倒した。

 その堂々としたたたずまいは、38年前の“怪物江川”を受け継いでいた。作新学院・大谷は冷静に、福井商最後の打者にスライダーを選ぶ。バットが狙い通り空を切ると「伝統の背番号1ですから。プライドを持って投げないと」と、大きく胸を張った。

 公式戦初完投にして、4安打1失点の見事な投球。1回の141キロは自己最速を記録したが、ペース配分も心配無用だった。3回からは、県大会後わずか3日で習得した新球スプリットも披露。5球を投げ「三振は取れなかったけど、試合で使える手応えがあった」と大物の片りんを見せた。

 同校が誇るOB、元巨人の江川氏は、大谷にとっても特別な存在だ。進学先を迷っていた中3のある日、テレビは江川特集を映していた。73年の甲子園とプロ時代。初めて見る「怪物右腕」の映像に「直球の勢いが高校生とは思えなかった」と衝撃を受けた。以来、作新の背番号1を取ることが大谷の目標になった。

 180センチ、83キロのがっちりした足腰は“江川階段”のたまものだ。学校近くに、全速力で上っても20秒以上かかる石段がある。投手陣は「ここは江川さんも走ったところなんだ」と奮起。冬は毎日20~30本、地獄の階段ダッシュを繰り返した。

 2月には左膝の骨分離症手術、3月には震災による実家の半壊を乗り越え、夏の県大会は滑り込みで背番号「17」に登録。ここで投手陣最多の26イニングを任された大谷は、決勝翌日に念願の「1番」を手にした。尊敬する江川氏からは、甲子園出場を祝して10ダースのボールが贈られた。「江川さんは目標。近づくにはまだまだ。まだまだです」と大谷。ちなみに、今大会で“怪物”の異名を取るのは、すでに敗退した花巻東の151キロ右腕・大谷だが…。「同じ2年生で名前も同じ。球速で負けても気持ちは負けてません」ときっぱり。江川は夏の甲子園では2回戦敗退。人一倍の負けん気で、次は本家怪物超えだ。【鎌田良美】