<全国高校野球選手権:仙台育英6-3飯塚>◇15日◇2回戦

 仙台育英(宮城)が逆転で3回戦へ進んだ。エース渡辺郁也投手(3年)が1回にいきなり3失点も、3回に自ら右越えに勝ち越し二塁打。2回以降は投球も立ち直り、12奪三振で7安打完投した。1回戦の佐賀北戦でも先制打を放って完投しており、2戦連続で完投&V打となった。

 渡辺は思わず、「禁止」のガッツポーズを繰り出してしまった。3-3に追いついた3回2死三塁。高めの135キロ直球をフルスイング。2歩ほど一塁へ進んだ時点で右手を上げた。右翼フェンス直撃の勝ち越し二塁打。「自分が打たれていたので、打ってやろうと感情が出てしまった。監督からガッツポーズをするなと言われているけど、出ちゃうものは仕方ない」と苦笑いで振り返った。

 序盤の悪夢を帳消しにしたかった。1回、先頭打者を三振に打ち取ると「三振が取れない投手なのに欲が出た」と力勝負を挑んだ。結果は3安打を浴び、自らの失策も絡んで3失点。ベンチに戻ると佐々木順一朗監督(52)から「お前の投球はこうじゃないだろう」と叱られた。「自分は打たせて取るタイプ」と思い直し、反省した。

 叱咤(しった)に目が覚めた2回以降は、得意のフォークボールを有効に使い、内外角を丁寧に突いた。中盤からスローカーブも交える余裕が出た。すると「今までで初めて」という12奪三振。「投球より全然自信がある」という打撃でも2戦連続の決勝打。すべてが好循環した。

 入学時から佐々木監督の期待が大きかった。期待の裏返しで、怒られた回数もチームトップ。以前は制球を乱し、独り相撲をとっては「お前はピッチャーじゃない。お前のせいで負けた」と怒鳴られていた。

 転機は今春の東北大会準決勝・盛岡大付戦だった。0-8の4回から救援。我慢の投球を続けると、味方打線が11得点を奪って逆転勝ち。佐々木監督も「味方の失策にもイライラしなくなった」と精神面の成長を認めた。それでもいまだに、試合のたびに同監督から「打ち合いになる」と予告されるが、乱調から立ち直ったこの日は「どこかで(監督を)見返してやろうという気持ちがあった。いい意味で裏切れた」と胸を張った。

 一昨年も夏の甲子園でベンチ入りしたが、3回戦で敗退した。「大先輩を超えるためにも、1つ1つ勝ちたい」。投打の軸はきっぱり言った。【斎藤直樹】

 ◆渡辺郁也(わたなべ・ふみや)1994年(平6)4月27日、仙台市生まれ。荒浜小6年の時に楽天ジュニアに選出され、エースとしてNPB12球団ジュニアトーナメント優勝に貢献。秀光中では軟式で最速138キロを武器に東北大会優勝。高校入学後は1年夏の甲子園でベンチ入りし、2年秋からエース。175センチ、78キロ。右投げ左打ち。家族は両親と兄、姉。