<全国高校野球選手権:興南4-1仙台育英>◇17日◇3回戦

 仙台育英(宮城)が優勝候補筆頭を最後まで苦しめた。今春センバツ王者の興南に1-4で惜敗。4回途中から救援した最速145キロ左腕エース木村謙吾が、4回2/3を1安打6奪三振と好投した。1、2回戦の勝利の立役者、右腕・田中一也(ともに3年)も甲子園で初先発し3回1/3、7安打4失点と粘りの投球。「2人でエース」を胸に戦い続けた両腕の最後にふさわしい熱投を聖地で披露した。

 ふてぶてしい木村が甲子園に戻ってきた。「おれが木村謙吾だ!」。そんな思いでセンバツ王者に向かっていった。先発の田中が苦しみ、4回1死一、二塁から登板。「ああ、帰ってきたんだな」。2年前、3回戦の横浜戦もナイターだった。もう1、2回戦のような、ふがいない投球はできない。エースが「けんか腰」を取り戻した。3番我如古、4番真栄平と連続三振に仕留め、これまでなかったガッツポーズを見せた。

 その後も木村は躍動する。王者相手に1安打投球。6回の先頭打者・島袋を空振り三振に仕留めると甲子園は大歓声に包まれた。「やっと楽しむことができた」。背番号「1」に、らしくないプレッシャーを感じていた。16日、佐々木順一朗監督(50)から「甲子園に来られたのは、おまえのおかげ。楽しめ」と激励を受け、生まれ変わった。

 打撃陣も応えようと必死に島袋に食い下がった。2回、先頭打者の三瓶将大(3年)がバックスクリーンへ特大のソロアーチ。「入るとは思わなかった。感謝の気持ちで打ったホームラン」と2回戦を右肩痛で欠場していた分を取り戻した。最大のチャンスは7回。6番日野聡明の二塁打をきっかけに2死満塁とし、2番佐々木憲(ともに3年)が「クセは見破っていた」と島袋の直球をとらえる。打球はグングンとセンター方向へ。だが相手中堅手の足は止まり、中飛に終わった。得点にはならなかったが、エースの復活が、チームに勢いを与えていた。

 新チームになってからの木村は苦難の連続だった。昨年12月に左ひざを手術。まともに走れるようになったのは4月に入ってからだった。練習嫌いだったが、この時ばかりは焦った。2月下旬には佐々木監督に知られぬよう、禁止されていたピッチングを室内練習場で始めた。さらに「走れる」と判断し、普段走り込みに使う塩釜神社への12キロの道のりを走った。だが、ひざにうみがたまり、監督に怒られたという。

 小2で両親が離婚。女手一つで育ててくれた母ゆかりさん(45)に前夜、普段口にしない感謝の言葉を述べた。試合後も号泣する田中に「泣くな。おまえのおかげでここまで来られたんだ」。涙を見せぬエースは、ナインの背中をたたき励まし続けた。しかし本当は違った。「今日のテーマは『笑顔』ですから。我慢しました。宿舎に帰ってから1人で泣きます」。やんちゃな木村は、今にも泣きそうな顔で甲子園を後にした。【三須一紀】