<全国高校野球選手権:東海大相模10-3九州学院>◇19日◇準々決勝

 マウンドを離れたエースをもう1度、甲子園のマウンドに立たせたかった-。九州学院(熊本)ナインの願いはかなわず、東海大相模(神奈川)に敗れ初の4強入りの夢は果たせなかった。

 3回戦まで完投してきたエース渡辺政孝(3年)をアクシデントが襲ったのは6回の守備だった。打球が左手首を直撃した。衝撃でグラブが落ちそれでも必死に一塁へトスしてチェンジにした。「手首に力が入らなくて、指がしびれてしまった」。次の攻撃で代打が送られ、2番手の大塚に交代。6回までに4失点し「相手が東海大相模と言うことで力みがあったかもしれません。最後まで投げたかったけど」と左手首のアイシングを見つめた。

 エースが降りた試合で、ナインは決して勝利をあきらめなかった。8回1死一、二塁で女房役の坂井が左中間へ2点二塁打を放ち、反撃ののろしを上げた。父でもある坂井監督に「お前が打ってこい」と送り出され、気持ち込めた一打だった。「渡辺さんが体を張ってライナーを止めてくれたのを見てうれしかった。2点を返していけると思いました」。坂井に続けと、代打で出た岩田が中前打で1点追加。ベンチ入り18人が出場する総力戦で大会屈指の右腕・一二三に意地を見せた。

 学年を超えた絆(きずな)があった。4番に1年生が座り、スタメン中5人が下級生。試合に出られない3年生は練習で下級生にトスを上げ、宿舎では洗濯係をするなど全力で後輩をサポートした。「先輩には感謝しかないです。練習中もコーチのように指導してくれました」と坂井は目を潤ませた。

 チームは結成時の目標だった「甲子園8強」を達成した。「自分たちの野球を最後までできたので悔いはないです」と渡辺はきっぱり。残された後輩たちは、来年の甲子園で8強を超えることで先輩へ恩返しをする。【前田泰子】