メジャーのトレードにも、やはり「縁」というものがあるのだろうか。7月31日のトレード期限にダルビッシュ有投手がレンジャーズからドジャースに移籍したとき、そんなことが頭を過ぎった。

 ドジャースのフロントには、2015年までブルージェイズでGMを努めたアレックス・アンソポウロス氏がおり、現在は球団編成部門のバイスプレジデントの職に就いている。アンソポウロス氏といえば、ダルビッシュが11年オフにポスティング・システムで移籍する前、日本まで視察に訪れ、獲得に熱心だったといわれている。実際、ポスティングのときには入札額がレンジャーズに次いで高額だったとの報道もあり、ポスティングの結果が明らかになる前はブルージェイズがダルビッシュとの独占交渉権獲得の最有力候補と伝えられたこともあった。

 アンソポウロス氏は結局、当時はダルビッシュ獲得を果たせなかったものの、チーム編成で着実に成果を出し、15年にブルージェイズを地区優勝、さらにリーグ優勝決定シリーズ進出にまで導いている。しかしブルージェイズがフロントの体制を大きく変更した15年オフ、契約延長のオファーを断りドジャースのフロントに移籍した。それから2年、ブルージェイズは大きく低迷する一方、ドジャースは歴史的快進撃の真っただ中におり、同氏はフロントの一員としてダルビッシュの獲得も実現したというわけだ。

 ファーハン・ザイディGMも、ドジャース移籍前からダルビッシュとのつながりがあった。同GMは14年11月に同職に就任するまで、アスレチックスでデータ分析アシスタントからGM補佐にまで上り詰めていたが、同じリーグの同地区だったレンジャーズのダルビッシュは気になる存在だったようだ。ダルビッシュがドジャースでデビュー登板をした日、同GMはホテルでダルビッシュに会い、投球のアドバイスをしたそうだが、GMがデータ分析をもとに選手に直々、助言をするというのは非常に珍しい。それだけ思い入れもあったのだろう。その翌日、同GMは「私がオークランドにいたとき、彼がテキサスにいて、何度か話をしたことがあった。彼と私には、多少のヒストリーがあるんですよ」と話していた。

 アンソポウロス氏やザイディGMのようなフロントの人々にとっては、自分が見込んだ選手が思い描いていた通りに活躍するというのは、楽しくて仕方がないに違いない。実際、ダルビッシュのことを話す同GMは、そんな顔をしていた。ダルビッシュにとっては、移籍先が縁のある人々のいる球団でよかったと思う。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)