ヤンキースの試合中継テレビ局YESで試合を観ていた先日、実況のマイケル・ケイ氏が中継の中で、新人王に相応しい選手は誰かという話をしていた。

ヤンキースには新人王候補のミゲル・アンドゥハー、グレイバー・トーレス両内野手がおり、エンゼルス大谷翔平投手の賞争いライバルと目されている。そこでケイ氏は「アンドゥハーやトーレスの方が相応しい。彼らはポストシーズン進出をかけた意味のある試合を戦っているからね。大谷にはそれがない」と意見した。

もちろん自分の地元であり、ましてや試合中継をしているテレビ局のコメンテーターが、地元選手を推すことには何の不思議もない。どの都市のメディアにもあることだと思う。

ただし米国スポーツメディアには常に「東海岸バイアス(ニューヨークやボストンなど東海岸にあるチームが偏重報道されること)」が存在するといわれてきた。例えばニューヨーク・タイムズ紙などはニューヨークのチームを中心にカバーしているが、全米で販売される全国紙なので、自然とニューヨークのチーム情報が全米に発信されている。ニューヨークのメディアだけでなく、全米メディアも東海岸にあるチームやその選手にスポットを当てることが多く、その結果として東海岸にスター選手が生まれやすい。

そうした東海岸バイアスがあるため、大谷はそこまで目立たないかもしれない、新人王争いもその影響を受けるのではないか、といった声が以前は出ていた。しかしレギュラーシーズン終盤以降の各メディアの新人王予想をみると、大谷を挙げているところが目につく。

スポーティングニューズ電子版、スポーツイラストレイテッド電子版などの主要メディア、ベテラン有名野球記者のジョン・ヘイマン氏もそうだった。ケイ氏のような意見はニューヨークでは聞かれるが、そうしたニューヨークの影響力が他都市に及んでいる様子はない。ベーブ・ルース以来の本格二刀流という大谷のインパクトは、東海岸バイアスのあった米メディアをも変えたといっていいのかもしれない。

大谷の存在は、取材する側に直接的な影響も与えている。多くのメディアが、大谷も含めエンゼルスを以前より多く取り上げるようになった。筆者が知っているヤフー・スポーツのベテランコラムニスト、ティム・ブラウン記者はロス在住で、ドジャースタジアムやエンゼルスタジアムに行くとよく顔を合わせるのだが、彼は多くの大谷記事を書き続け、今では米国の大谷ウォッチャー第一人者的な立場になった。

以前はエンゼルスの記事を書くことはそれほど多くはなく、エンゼルスタジアムに来ていても別の記事を書いていたのに、だ。この1年、米野球メディアも、そんな風に変わっている。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)