今季のメジャーのポストシーズンは、投手の癖盗み騒動が目立った。

ヤンキースとレッドソックスの地区シリーズでは、ヤンキースの先発右腕ルイス・セベリーノ(24)が第3戦の先発時に敵に癖を盗まれており、それが3回7安打6失点のKOにつながったとの疑惑が浮上。ドジャースの先発左腕リッチ・ヒル(38)と右腕ロス・ストリップリング(28)は、このポストシーズン中に癖が盗まれていることに気づき修正したと、ロサンゼルスの地元メディアが伝えている。

プレーオフの最初の2シリーズで防御率7点台と打たれていたレッドソックスの守護神クレイグ・キンブレル(30)も癖を盗まれていた可能性が発覚し、問題部分を修正してワールドシリーズに臨んだ。癖を指摘しキンブレルに教えたのはかつてドジャースで8年間抑えを務めたエリク・ガニエ元投手(42)だったそうで、レッドソックスのアレックス・コーラ監督(43)が現役時代にガニエ氏と同僚だったことから、その人脈で情報が伝えられたという。

癖盗みといえば、カブスのダルビッシュ有投手(32)が、ドジャースに所属していた昨季のアストロズとのワールドシリーズ第7戦に先発し3安打5失点(自責4)で1回2/3でKOされたが、このとき打たれたのも癖が盗まれていたことが原因というのは今も語り草になっている。今年7月に米国で出版された、アストロズの世界一達成までの軌跡を描いた『アストロボール』(ベン・リーター著)にダルビッシュの癖がいかに盗まれたのか詳細に記されているのだが、それによると癖盗みの“功労者”はカルロス・ベルトラン(41)だった。昨季限りで引退したベルトランは昨年1年契約でアストロズで主にDHとしてプレーし、年齢的にも主力として活躍するのはもはや難しい状態だったが、若手の教育係として、縁の下の力持ちとしてチームを支えた。ポストシーズン中は自らビデオでダルビッシュの投球を研究し、癖を見つけてチーム内で情報の共有を徹底させたのがベルトランだったという。それは直球を投げるときに右手首をひねり、変化球を投げるときはひねらないというものだった。

もっとも、ネットメディアのブリーチャーリポート10月22日付の記事によると、あるア・リーグ球団のスカウトは「ダルビッシュに癖があることは、誰もが知っている。しかし彼が本当にいい状態のときは、分かっていても打てない」と話しているという。普段以上にストレスのかかるポストシーズンで登板が重なり疲労もたまってくると、なかなか万全の状態とはいかず、それがワールドシリーズの緊張感の中ではさらに負の影響が出るのではないだろうか。今季のワールドシリーズでも初戦がエース左腕のセール(レッドソックス)とカーショー(ドジャース)の投げ合いだったが、投手戦とはならずどちらも5回もたずに降板した。左投げの方が癖が出やすいそうだが、エースが打たれたのもそんな影響があったのかもしれない。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)