ドラフト1位候補で、初出場の中京学院大(東海地区、岐阜県リーグ)・吉川尚輝内野手(4年=中京)が、鮮烈な全国デビューを果たした。初回に先制の中越え適時三塁打を放つと、遊撃の守備でも再三の好守でもり立てた。ネット裏に陣取った国内12球団、メジャー3球団の総勢80人を超すスカウトをうならせた。吉川のV打も光って日本文理大(九州地区北部)を2-0で破り、広島菊池の母校に全国初勝利をもたらした。

 神宮開幕戦の第1打席で、吉川が「ドラフト1位候補」の評価を確定させた。初回1死三塁で巡ってきた全国大会初打席。「何が何でもボールにバットを当てる」。岐阜県リーグの打率、打点2冠が、6球目のスライダーを執念でとらえた。中越えの適時三塁打。思いきりのいいスイングも、一気に三塁を陥れた50メートル5秒7の俊足も、全国区の力量だった。

 2回以降は守備で本領を発揮。不慣れな人工芝のバウンドにもしっかりとグラブを合わせ、4度の併殺を完成させた。リーグ戦からマークを続ける阪神は、高野球団本部長、佐野統括スカウトら13人態勢で視察。「広角に打てるし、足があり、守りもしっかりしている。日大の京田君、早稲田の石井君とともに今年を代表するショートでしょう」と佐野統括。DeNA吉田スカウト部長は「打撃センスがあるし、3拍子そろっている。野手では日大・京田君とともに1位候補」と断言した。同時刻、東京ドームにほぼスカウトの姿はなし。国内12球団だけでなく、メジャー3球団を含め、総勢80人を超すスカウトが神宮に集結した中で、吉川は輝きを放った。

 「人生が変わるきっかけになった」と吉川が明かすのは、2年時に参加した全日本代表候補合宿。明大・高山(現阪神)の打撃、攻守の体力を見て、自分との差を痛感した。直後に地元スーパーでのアルバイトをやめ、ジムに通い始めた。「体が一回り大きくなった。井の中の蛙(かわず)が大海に出た、ということではないでしょうか」と近藤正監督(67)も目を細める。たとえ強豪大学がひしめくリーグにいたとしても「吉川なら打てる」とプロが確信するスイングは、ここから生まれた。

 「神宮に入って鳥肌が立った。ここで野球をやるんだ、と興奮しました。昨日は寝付けなかったんです」。すべての準備を整えて臨み、最初のチャンスで結果を出した。吉川は運命を味方にした。【堀まどか】

<吉川尚輝(よしかわ・なおき)アラカルト>

 ◆生まれ 1995年(平7)2月8日、岐阜・羽島市出身。

 ◆球歴 小2で野球を始め、投手。桑原中では「羽島フジボーイズ」に所属し遊撃手。中京(岐阜)では1年夏に三塁手で出場し、同年秋から遊撃手。甲子園出場はなし。中京学院大では1年春から出場。

 ◆タイトル総なめ 2年春から3季連続で盗塁王。今春の岐阜県リーグ戦では3度目のベストナインとMVPを獲得。全日本大学選手権出場をかけた東海地区大学野球春季選手権大会でも、MVPを獲得。

 ◆転機 野球観の違いから強豪大への入学を辞退。一時野球をやめることも考えたが、高校の恩師から「野球を続けてほしい」と熱望され中京学院大に入学。

 ◆サイズ 177センチ、79キロ。遠投97メートル。右投げ左打ち。

 ◆家族 両親と兄2人。

 ▼今秋ドラフト上位候補のスカウト視察 最速156キロ右腕の創価大・田中正義投手(4年=創価)には、4月5日の開幕戦で12球団45人が集結。吉川は5月17日のリーグ戦で12球団47人、日大・京田は4月のリーグ初戦に日米11球団30人が視察に訪れた。高校生では、今春の関東大会で横浜(神奈川)の最速152キロ右腕・藤平尚真投手(3年)に11球団35人、東海大市原望洋(千葉)の153キロ右腕・島孝明投手(3年)は10球団24人。社会人では、3月に東京ガスの山岡泰輔投手(20=瀬戸内)を日米13球団がチェックした。

 ▼今秋ドラフトの遊撃手事情 吉川と並んでドラフト1位候補に挙がるのが、日大・京田陽太内野手(4年=青森山田)だ。50メートル5秒9の俊足が売りで攻守において堅実さが光る。早大の4番打者、石井一成内野手(4年=作新学院)、東洋大・阿部健太郎内野手(4年=帝京)は勝負強い。高校生では通算52本塁打の右打者、明秀学園日立(茨城)細川成也内野手(3年)に熱い視線が注がれている。都市対抗出場を決めた東京ガス・中山悠輝内野手(21=PL学園)も即戦力評価。