DeNAのラミレス監督は思い切ってやるだろう。ソフトバンクも不気味だと思うはずだ。私と同じで極力、送りバントをしない。「誰がアウト1つやるもんか」と思ったものだが、大リーグでもデータで実証済み。無死一塁の犠打は得点率が下がる。無死二塁なら上がる。公式戦でも12球団最少の84犠打。データを重視するタイプだから、意図的に実践していると思う。

 彼が監督に就任した時、あいさつに来た。「野球は投手。守りだ。メジャーでもベンチがサインを出している。出さなきゃいけないよ」と言ったら「自分もそうする」とうなずいていた。私がベンチからバッテリーに配球のサインを出していたのを知っていたのだろう。いくら打っても守れなければ勝てない。ベンチから、よく捕手を見ているのが印象的だ。

 (指揮した)98年に横浜が日本一になれたのは、鉄壁の守備あってこそだ。西武との日本シリーズ。第5戦の前、4戦まで15打数2安打と不振の駒田が「自信がない」と漏らした。私はこう返した。「ちょっと待て。自信がないと言われたら使うわけにいかん」。奮起したのだろう。4安打5打点。だが不動の5番から外す気はなかった。抜群の一塁守備があったからだ。的が大きく、どこに投げても捕ってくれる。その存在がチームにとって大きかった。

 短期決戦は、やるか、やられるか。3位DeNAが阪神、広島とのCSで勝ち抜けた要因の1つは、真っすぐを積極的に用いていたことだ。広島が変化球から入っていたのとは対照的だった。「打たれてはいけない」。そう思って大切に攻めようとするから、つい変化球主体の配球になりがちだ。でも、ボールが続くと、結局、投げる球がなくなり、真っすぐを打たれてしまう。戦っていないということだよ。大リーグのワールドシリーズを見ていても、やはり、強いチームは真っすぐでグイグイ押している。単純に「攻撃的=速球」ではないが「行くぞ!」と戦う短期決戦は、強い球を投げていくべきだろう。

 私がこうすれば日本シリーズで負けると思い知ったのは89年だ。近鉄の投手コーチとしてエース阿波野の1、4、7戦先発を主張していた。あの年、19勝していて、阿波野なら連敗しないと踏んだからだ。巨人に幸先よく3連勝。すると仰木監督が当初、4戦目予定だったのを5戦目先発に変更。勝負師の決断だったが4連敗してしまった。スキを見せたらやられるんだ。ラミレス監督はCSの広島戦で先発要員の今永、浜口を救援起用した。広島は勢いに乗ったら止まらない。ちょっとでも後手に回ったらやられる危機感があるから、あの継投になる。止められる間に止める。何が何でも勝つ意思が表れていたし、勝負勘は見事だった。

 彼の胆力にも、感心するよ。今季、守護神の山崎康を中継ぎに降格させながら、再び抑えに戻した。失格と判断しても、力さえあれば戻す。日本流では、なかなかできないことだ。今までの野球の概念を吹き飛ばしている。

 98年の第1戦。先頭の石井琢朗がバントヒットして二盗し、2番波留が送る。先制のキッカケになり、流れに乗れた。実はベンチから、何もサインを出していなかった。黙って見ていたら、自分たちでやった。あとで石井に聞けば、考えていたと言っていた。日本シリーズは1年の戦いの集大成だ。自分たちが、なぜ、CSを勝ち上がれたのか。自分たちの野球をするだけだ。いまのソフトバンクは近年のチームでも最強だろう。胸を借りるつもりで戦ってほしい。(98年横浜監督 権藤博氏、野球評論家)