ソフトバンクがサヨナラで2年ぶり8度目の日本一を決めた。福岡での「SMBC日本シリーズ2017」第6戦は、1点を追う9回に4番内川聖一内野手(35)が同点ソロを放ち、延長11回に川島慶三内野手(34)が決勝タイムリーを放つ劇的フィナーレ。サヨナラ勝ちでの日本一決定は88年第5戦の西武(延長11回)以来29年ぶり。07~09年にDeNAに在籍し、6年前には監督就任を要請された工藤公康監督(54)にとって、勝つことこそが「感謝と恩返し」だった。

 劇的なサヨナラ勝ちだ。工藤監督も笑顔でガッツポーズをつくった。延長11回、2死一、二塁から川島が右前へ。二塁走者中村晃が本塁へ。タイミングは微妙だったが、右翼手から本塁への送球が高くバウンドし後逸、サヨナラのホームへ飛び込んだ。

 工藤監督 頭が真っ白でした。勝ったんだ、日本一になったんだという喜びがわいてきて、もう泣かないと決めたんですけど、一瞬にして苦しかったことが頭をよぎって、涙してしまいました。自分の現役時代も含めて、こんなに緊張して、ハラハラして、ドキドキした日本シリーズはなかった。日本一になれて幸せです。

 泣きながらナインと抱き合った工藤監督がヤフオクドームに7度舞った。接戦続きの日本シリーズ。3連勝で王手をかけてまさかの連敗。「苦しかった。3連勝してから2連敗して勝たなきゃいけないという状況で、選手が実力以上の力を出してくれた。必ず追いついてここで決めるんだと、選手を信じて采配を振った」。史上5位94勝を挙げたパ王者がセ3位のDeNAの下克上を許さなかった。

 この日も苦しい戦いだった。左腕今永を打てず7回まで松田のソロ1安打に抑え込まれていた。それでも、8回に柳田の投ゴロで1点差に追いつくと、9回1死から内川が守護神山崎康から同点ソロをたたき込み延長戦へ持ち込んだ。

 07~09年の3年間は現役としてベイスターズのユニホームを着た。打たれても応援してくれるファンの温かさは今も忘れない。自宅は横浜スタジアムから徒歩圏内で街にも愛着はある。感謝と恩返し。DeNAを倒しての日本一こそ最高の恩返しだ。

 11年オフに新生「横浜DeNA」の新監督として話が来た。結局、初代監督は実現しなかった。DeNA監督の話がなくなった翌日、横浜駅で「クドウ キミヤス」と記入したICカード「Suica(スイカ)」をつくった。そこから半年、評論家としてテレビ局や野球教室に電車通勤。周囲の視線を感じながら、電車に乗り続け新しい生活をスタートさせた。数え切れないほどの野球教室に臨み、普及に力を入れた。ソフトバンク監督となった今も「育てながら勝つ」という気持ちは変わらない。

 2年ぶりの日本一の喜びを味わうのは一瞬。10日には宮崎入りし秋季キャンプに11日から合流する。キャンプでの8日間、「笠谷、古谷、長谷川宙、(高橋)純平…」と名前を挙げる若手たちを鍛え指導する。工藤監督の挑戦に終わりはない。【石橋隆雄】